【タイ】ルティリア、AIで銃器検出[IT] 来年4月にタイで実証実験

バンコクの「サイアム・パラゴン」での発砲事件直後の店内の様子。ポップアップストアの柱には銃弾の痕が生々しく残っている=10月4日(NNA撮影)

人工知能(AI)を使った画像や映像の解析を手がけるRUTILEA(ルティリア、京都市)がタイ政府のプロジェクトの一環として、AIを搭載した監視カメラを使って銃器を検出するための技術開発を進めている。来年4月にも実証実験に入る。首都バンコクでは10月に中心部にある百貨店で発砲事件が起こっており、銃器の検出は日系駐在員とその家族の安全にも直接関わってくる問題だ。

タイを訪問中のルティリアのスタッフ、石川喜堂氏に話を聞いた。石川氏は、ルティリアの創業者、矢野貴文社長と同じ京都大学の出身。エンジニアとしてルティリアに入社後、現在は管理部に所属し、海外のAI企業への業務委託や発注手続きおよび調整などの外注先の管理を担当している。今回は、8月にルティリアと共同でプロジェクトをスタートしたタイ国立キングモンクット工科大学(KMUTT)の研究機関、科学技術イノベーション政策研究所(STIPI)との打ち合わせのために来タイした。

石川氏によると、ルティリアがSTIPIと共同で動画情報から銃器を検出するためのAI技術の開発に取り組むようになったきっかけは、矢野社長がSTIPIの関係者と「タイでAIを活用することでどのような社会問題を解決できるか」について話し合っていたところ、STIPI側から提案があったという。

タイでは登録制で銃の保有が認められており、700万丁とも、未登録分を含めれば1,000万丁とも言われる大量の銃が存在する。これまでにも地方では銃乱射事件や発砲事件がしばしば発生しているが、業務量の多い警官だけで銃犯罪を予防することは困難なのが実情だという。22年に東北部ノンブアランプー県の保育所などで元警察官の男が銃を乱射し、37人を殺害した事件は記憶に新しい。

今年10月には、バンコクのショッピングモール「サイアム・パラゴン」で発砲事件が発生。2人が死亡した。石川氏は「首都でも、とうとうこのような惨事が発生したのかととても驚いた」と振り返る。

■製造現場向けを応用

ルティリアはAI事業の1つとして、専門的なプログラミング知識がなくてもシステム開発できる「ノーコード」のデザインツールを提供している。誰でも簡単に操作ができ、カスタマイズできるのが特長。元々は、製造業の生産効率を支援するところから事業を出発した。

石川氏によると、銃器の検知には、同社のAIを使った「物体検知」と「姿勢推定」の技術が応用できるという。物体検知では、AIにさまざまな銃の種類を学習させる。姿勢推定では、タイ警察の協力を得て、カバンから銃を取り出したり、銃を構えたりする姿勢をAIに認識させるという。姿勢推定は実際の製造現場では、登録した作業姿勢から間違った作業をしていないかを検出するのに役立っている。

石川氏によると、来年4月をめどに保育園や病院といった室内でAIで銃器を検出するための実証実験を始める見通し。期間は3カ月ほどを想定している。

石川氏はAIの実証実験は2段階からなると説明した。最初はAIに学習させたり、覚えさせたりする段階で、検知するまでには一定の時間を要する。次の段階では、監視カメラを使ってリルタイムでの検知を目指す。

実証実験終了後は、ルティリアとSTIPIはタイ政府に報告書を提出する予定。有効性が確認された場合、個人情報などの法的な問題がクリアになった段階で実用化される見通しだ。

バンコクでの発砲事件にはとても驚いたと話す石川氏=14日、タイ・バンコク(NNA撮影)

銃器を検知できるAIを搭載した監視カメラを百貨店や保育園、病院などの施設の入り口に設置した場合、銃犯罪の予防につながると期待されている。タイのショッピングモールの入り口には金属探知機が置いてあることが多く、10月の発砲事件後には銃の持ち込みを防げなかった。

タイ政府の方針次第では、同プロジェクトの開発成果が一気に全国に広がる可能性がある。ただ、タイ政府内にも個人情報の観点からAIを搭載した監視カメラの導入に対して慎重な意見も根強いことから、「実用化までには一定の時間を要する懸念もある」(石川氏)という。

タイは監視カメラが至るところに設置されているなど、ルティリアのAI技術を生かせるインフラは十分に整っている。石川氏は「タイでの銃犯罪の予防に向けて最善を尽くしたい。まずは首都圏から始め、漸次地方に拡大していければ」と述べた。

© 株式会社NNA