流言飛語の「今」

 〈悪事、千里を走る〉という。悪いうわさはたちまち世間に知れ渡る。電話もなかった時代でさえ、そうだった。交流サイト(SNS)が盛んな今は、流言飛語がまさに一瞬で駆け巡る▲米国の大学が調べたところ、SNSでは誤った情報ほど猛スピードで、しかも多くの人に拡散するという。うその情報は「見てびっくり」が多く、ついつい人に伝えたくなるらしい▲うそを本当と信じ込み、親切心で広めることもあるにせよ、流言飛語の大半は言うなれば、鼻先をくすぐる甘美なにおいだろう。香りに誘われるように、興味や好奇心を刺激され、いつしかデマが広がっていく▲中には「怒り」が刺激される人もいる。社会への不満が強い人ほど「新型コロナウイルスは利権団体が考え出したデマだ」といった陰謀論を信じやすい。そんな調査結果が出た▲鹿児島大の大薗博記(おおぞのひろき)准教授らが900人余りを調べ、論文を発表した。「世の中を操る黒幕がいる」という陰謀論は、孤立感や不安を抱える人を引きつけやすいと考えられている▲世の中、とても信じられたものではない、でも何かを信じたい…という時世を表しているのかどうか。いま駆け巡る情報は甘い香りが強すぎ、感情の色も濃い。正しくてほのかに温かい、そんな情報の価値を今更ながらかみしめる。(徹)

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