風邪薬の不足深刻 県内の病院、薬局 インフル感染拡大に危機感

深刻な薬不足となっている薬局=富山市内

  ●シロップで代替、解熱剤を節約

 富山県内の病院や薬局でせき止め薬や解熱剤といった風邪薬不足が深刻化している。処方量を減らしたり、錠剤の代替薬としてシロップを出したりして薬の節約に苦心している。ジェネリック医薬品(後発薬)メーカーの不祥事を背景にした医薬品減産は解消の見通しが立たない。冬到来でインフルエンザの感染拡大も想定され、医療関係者は危機感を募らせている。

 富山市本郷町のおぎの内科医院では11月上旬ごろから発熱の症状を訴える患者が次々と訪れるようになった。インフルエンザに感染して高熱や激しいせきに苦しむ人もいるが、荻野英朗院長(62)は薬をどう処方するか頭を悩ませる。

 「解熱剤は朝、晩の1日2回分だけにさせてください」「せき止めは錠剤がないのでシロップを使ってもらいたい」。心苦しさを覚えながらも、こんなお願いをせざるを得ないという。

 最寄りの調剤薬局からは週2、3回程度、在庫状況を知らせる案内が届く。最近は、インフルエンザや風邪で処方するせき止め薬、総合感冒薬、抗菌薬(抗生物質)を中心に欠品が目立ち、多い時は約50品目が在庫不足となった。荻野院長は「流行はこれからがピーク。適切な医療をしていけるだろうか」と懸念を示した。

 富山市民病院でも院内用の薬の在庫に余裕はない。舟瀬和美薬剤科長は「在庫を切らさないようにするのでぎりぎりの状態」と話す。医師と連携して必要最小限の処方量で節約し、医薬品卸の業者に相談して確保しているという。

 県内ではインフルエンザの流行拡大が注意報レベルになっている。県が22日に発表した感染症発生動向調査(13~19日)では患者数が1医療機関当たり15.71人で、前週を5.44人上回った。県内の小学校では休校や学級閉鎖が相次ぐ。

 県薬剤師会の西尾公秀会長(65)は薬不足の現状に「命に関わりかねない」と強い危機感を示す。代替薬のない薬を服用している患者もいるためだ。西尾会長が社長を務め、富山市内に5店舗を展開する西尾薬局では、こうした患者に優先的に処方できるように薬を確保している。

 西尾会長は薬価制度の見直しも必要とした上で「一日も早い安定供給をお願いしたい」と述べた。

 

  ●日医工の生産縮小、影響大きく

  ●薬価下落も一因

 せき止めなどの医薬品不足を巡っては、後発薬大手だった日医工(富山市)が2021年3月に富山県から違法製造で行政処分を受け、生産を大幅に縮小した影響が大きい。その後、全国でメーカーの製品回収や生産停止が相次ぎ、国が供給増を要請したが、薬不足が解消する見通しは立っていない。

 日医工は不正発覚前、取り扱い品目が約1700品目に上った。経営再建のため「安定生産が困難」などとして品目を減らし、今年7月にほぼ半数の約900品目にする計画を発表した。撤退する薬の中には、生産コストが売価を上回る不採算品目が含まれる。

 医療用医薬品の公定価格である「薬価」が下落し、日医工以外の企業でも生産量を増やしにくいことも薬不足の一因という。「一部の薬は作れば作るほど赤字」(富山市の製薬メーカー担当者)で、原材料費高やエネルギー高で経営の厳しさが増している。

 日本医師会が10月に公表した会員アンケート結果によると、院内処方をしている医療機関の9割が「入手困難な医薬品がある」と回答。せき止め薬や去たん薬、解熱剤の不足が浮き彫りになった。厚生労働省は今秋、せき止め薬などを生産するメーカーに増産を求めている。

 「薬都富山」の多くの医薬品メーカーは増産体制を続けているが「現行の薬価制度では経営が成り立たない。生産量には限度がある」との声も漏れている。

  ●9校で集団風邪

 富山県は27日、県内の9校でインフルエンザとみられる集団風邪が発生し、学年、学級閉鎖とする措置を取ったと発表した。措置が取られたのは次の各校。

 中央小、新庄小、広田小、堀川小、西田地方小、上滝中(以上富山市)牧野小(高岡市)宮田小(氷見市)上市高(上市町)

© 株式会社北國新聞社