「もう愛されない」性被害に潜むグルーミングと時間の壁 狙われた子どもたち

夢を持つ子どもたちが被害にあった旧ジャニーズ事務所性加害問題、教え子の女子児童を盗撮していた塾講師。性をめぐる問題がクローズアップされた2023年、数々の“性加害”が明らかとなりました。

「ずっと人間関係がうまくいっていなくて、小学生の時からの性被害がなかったら、もっとうまくいってたんじゃないかって」。

塾の講師から性被害を受け続けた、ほのかさん(仮名・20代)。今年2月に裁判を起こしました。被害を受け続けているにもかかわらず、ほのかさんは当時はこう思っていたそうです。

「この人がいなくなったら私はこれ以上、もう愛されないかもしれないと思っていました」。

■性被害のきっかけは“特別扱い”

「ちょっと特別扱いされていて、家に呼ばれているし、勉強見てあげるって言われているし、なんかチャンスかな、って思っていました。」

塾の講師から性被害を受け続けた女性、ほのかさん(仮名・20代)。

小学校高学年のころから通っていた塾の講師から、「勉強しよう」と自宅に呼び出されたのが始まりでした。服の上から下半身を触られましたが、性的な知識もないままで疑問を持つことはありませんでした。

中学生になり、塾をやめても「無償で教える」と塾講師の自宅に呼び出されます。下着を脱がされたり、裸の写真や動画を撮影されたり、行為はエスカレートするばかりでした。被害は大学受験を終えたあとまで続きましたが、両親は勉強を教えてくれる講師を疑うことはありませんでした。

「普段はベタベタしてくるけど、怒るときにすごく怒鳴ったりする人だったので、怒鳴ったりする人は得意じゃなくてあまり逆らえなくなっていて、いいからと言われて根負けしたりとか。」

■「正しい被害者像を知ってほしい」

ほのかさんが裁判をするきっかけになったのは、広島で行われたフラワーデモでした。

フラワーデモは3年前、各地の裁判所が性暴力で訴えられた男性を相次いで無罪とした判決を出したことに抗議し、全国で始まりました。

ほのかさんはこのデモを偶然見かけ、自らの被害に気付いたといいます。被害にあってから、10年近くたっていました。

「私がフラワーデモとかMeToo運動に背中を押してもらったみたいに、今、未来のある子どもが同じような人生を無駄に過ごしたらかわいそうだと思って。その昔はいたずらだって片付けられていたことが、これは被害だと整理されてきているところもあるのではないかと。世間に正しい被害者像っていうのを知ってほしいと思います。」

ほのかさんは今年2月に裁判を起こし、「当時、グルーミングの状態で被害は10年に及んだ」と訴え、講師は事実を認め和解しました。

■性的グルーミング「一瞬で洗脳が解けるわけではない」

被害を受け続けているにもかかわらず、ほのかさんは当時はこう思っていたそうです。

「先生が、『愛しているからこういうことをする』とか、『自分が一番愛している』みたいなことをずっと言っていて、この人がいなくなったら私はこれ以上、もう愛されないかもしれないと思っていました」。

性的グルーミングとは、わいせつ目的で、人を脅したり、甘い言葉で誘惑して手なずけたりして、心理的にコントロールすることで、今年7月の刑法改正で、16歳未満の子どもに対してわいせつ目的を隠して会うことを要求したり、性的な画像を送らせたりした場合は罰せられることになりました。

ほのかさんの裁判を担当した寺西環江弁護士は、性的グルーミング被害を防ぐには、学校や塾以外で個別に会わない、SNSメッセージが個別に来たら注意することが大切だと話します。

「グルーミングは、簡単に言うと洗脳ですけど、長いこと洗脳されてるからそこから離れたら一瞬で洗脳が解けるわけではない。つけられた傷の大きさはとんでもない」。

■性被害の立証 “時間の壁”

寺西弁護士はこの1年、刑事、民事合わせて11件の性被害の裁判を受け持ちました。しかし、性被害の立証は難しいのが現実です。そのうちの一つに、時間の壁があります。

「除斥期間の20年以上が経っているのに今更訴えてきたという、訴えること自体責められているような。もう負けるなと思っていました」。

約30年経って、実の父親を相手に提訴したゆうこさん(仮名・40代)。保育園の時から体を触られ、小学生の時には性行為を強要されました。それは中学2年生まで続いたといいます。

「物心つく前から被害にあって、何か分からないもやもやした気持ちがあると、正常か正常じゃないのか考えることもないですし、分からないっていうのが分からない」。

ゆうこさんもまた「愛している」という言葉のグルーミングで、虐待に気付くことはありませんでした。

40代でようやくPTSDと診断され、ようやく裁判を起こしましたが2審も棄却。不法行為から20年経ってからは、請求する権利がないという判断でした。2017年に民法が改正されましたが、改正前の事案には適用されていません。

ゆうこさんは今年12月、最高裁判所へ上告しました。

「私、本来の被害を受けていない人生は一つも味わえていない。黙っていたら変わらないから

裁判しますと言った時から、絶対最後までやる。負けても絶対最後までやる」。

寺西弁護士は、そもそも性被害を訴えること自体が難しいとしたうえで、「勝つか負けるかじゃなくて、尊厳を取り戻すために戦いをされているのだと思います」と、裁判を続けるゆうこさんに寄り添います。

2023年、性被害に苦しんできた人たちが、自らの尊厳を守るためにあげた声。ようやく世の中に届き始めています。

▼話にくい被害について相談を受け付けています。

性被害ワンストップセンターひろしま<082・298・7878>

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