「一つしかない命 大切に」 事故で19歳次男亡くした村上さん(青森・板柳町) 若い世代にメッセージ

「命があるだけで満足。大事にしてほしい」と話す村上さん。手にしているのは次男・裕悟さんの写真

 青森県板柳町で焼き鳥店を営む村上信正さん(61)は14年前、当時19歳だった次男の裕悟さんを交通事故で亡くした。10代、20代の若者の自殺者が全国でなくならない中、村上さんには若い世代に伝えたい思いがある。「息子のように、生きたくても生きられなかった命がある。どうか、一つしかない自分の命を大切にしてほしい」

 裕悟さんは2009年、県内で軽乗用車を運転中に事故に遭い、帰らぬ人になった。「動けなくなってもいい。命だけは助けてほしい」。搬送先の病院で、村上さんは何度も医者にすがったが、即死の状態で手遅れだった。「何で私ではなかったのか」。妻の体重は2週間で10キロ近く減った。

 「次男の裕悟は愛嬌(あいきょう)があり、同級生より、年上の先輩たちと気が合うようだった」。葬儀には約550人が弔問に訪れ、村上さんは驚いた。村上さんの元には、今も毎年、遺影に水を上げに来てくれる裕悟さんの友人たちがいる。村上さんは、30代になった裕悟さんの友人たちから人生相談をされることもあり、アドバイスを送る。

 厚生労働省のデータによると、全国の小中高生の自殺者はコロナ禍に入ってから急増。22年は過去最多の514人に上った。最近は「オーバードーズ」と呼ばれる、若者の市販薬や処方薬の過剰摂取が社会問題となっている。

 村上さんは「仕事や人間関係でうまくいかず、悩み、切羽詰まるような気持ちは分かる。死にたいと思ったら、一回深呼吸をして考えてほしい。家族でも友人でも相談窓口でも、話を聞いてくれる人はいる」と語る。

 村上さんは県内の企業で会社員として働き、22年に定年退職。同年夏から故郷の板柳町で一人で焼き鳥店を切り盛りしている。店に隣接する自宅の仏壇には、裕悟さんの笑顔の写真を飾っている。「親にとって子の存在は特別。裕悟は、やりたいことや夢があったのに、できずに旅立ってしまった。命があるということは、本当にありがたい。それを知ってほしい」

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