昔「トーア」、今「トア」 通りの由来、諸説アリアリ 神戸・旧居留地と山手結ぶ「トアロード」

ビルが立ち並ぶトアロード=神戸市中央区(撮影・大高碧)

 神戸市中央区の旧居留地と山手を結ぶ道路「TOR ROAD」には、神戸らしいハイカラな響きがある。緩やかな坂道を登っていると、通りの名を冠したビル名の看板に目がとまった。カタカナで一文字ずつ外壁に並ぶが「ト アロード」と不自然なスペースがある。以前は「ー」を掲げていた痕跡も。周辺に目を向ければ、建物名などは「トア」も「トーア」も「東亜」もある。コンビニの店名さえ表記が割れる。通りの名に、どんな由来と変遷があるのか-。(門田晋一、段 貴則)

 通りは全長約1キロのほぼ直線道路で、ビルや各国の料理店などが並び、最近はマンションも増えている。

 どこから手を付けようか、迷っていると、うってつけの冊子が中央図書館に寄贈されていた。

 「神戸トアロード物語」(1998年)。著者は、通りを登った山麓に長年暮らしていたという郷土史研究家の故弓倉恒男さんで、サブタイトルには「その名の謎に挑む」とある。

 まず驚くのが、表記の多様さ。道路の通称名を標示する看板写真(撮影時期不明)には「トアーロード」と記された1枚も掲載されている。

 現在の表示は「トアロード」。神戸市に変遷について問い合わせてみると、1977年に道路のニックネームを検討する場があり、北野異人館街に向かう「北野坂」などが決まった。ただ、当時の新聞報道やその後の資料などから、この頃には「トアロード」が使われていたという。

 ちなみに、戦中の神戸を描いた作品「神戸・続神戸」(西東三鬼著)には「トーアロード(その頃の外国語排斥から東亜道路と呼ばれていた)」とある。

 表記の違いは時代による変遷もあるのだろうが、それ以上に多様なのが、TORの由来。神戸出身の直木賞作家陳舜臣さんも著書「神戸ものがたり」の中で「諸説紛々である」と指摘する。弓倉さんは著書で諸説をこう列挙している。

 ①ホテル説

 ②英語説(古語で「岩山」の意)

 ③ドイツ語説(「Tor」は「門」の意)

 ④東亜説(漢字説)

 ⑤鳥居説(ローマ字つづり「torii」から「ii」が抜け落ちた)

 地元の見立てはどうなのか。「かつて存在した『トアホテル』の名前から取った、という説が有力視されていますね」。地元商店主らでつくる「トアロード地区まちづくり協議会」の清水俊博会長(72)が教えてくれた。そのホテルは、通りの最北にあったという。

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