心遊ばせ、安らいで 長崎の作家・村山早紀さん 初の本格SF「さやかに星はきらめき」を刊行

「ファンタジーの世界に心遊ばせ、安らいでほしい」と語る村山さん=長崎市尾上町、メトロ書店長崎本店

 長崎県長崎市の作家、村山早紀さん(60)が初の本格的SFファンタジー小説「さやかに星はきらめき」(早川書房)を刊行した。数百年後、月に住む“新しい人類”の出版社編集長らが宇宙で語り伝えられてきたクリスマスの物語を集め、愛に満ちた人類全てへの贈り物になるような本を作るストーリー。村山さんは「今の世の中は戦争や疫病などつらく悲しいことが多いので、つかの間のファンタジーの世界に心遊ばせ、安らいでほしい」と話している。

「さやかに星はきらめき」の表紙

 小説では、未来の地球は天変地異、大恐慌、民族紛争、戦争によって放射能に侵されるなど人が住めない星に。飼い主と共に月などに脱出したイヌやネコは二足歩行ができ、言葉を話す「イヌビト」「ネコビト」に進化。「古き人類」ヒトと共に月面都市や宇宙ステーションで暮らしている。
 主人公のキャサリンはネコビトの腕利き編集者。翼を持つ「トリビト」や「異星人」の協力を得ながら本を完成させていく。
 5章連作となっており、各章の最後に、そのオリジナルのクリスマス物語を掲載。第1章の「守護天使」は辺境の移民惑星で唯一生き残った少女の味方は犬と猫と鶏だけだったが、神さまが奇跡を起こす。第3章の「White Christmas」では地球に残された遊園地のロボットの少年とかつて人形だった「カーネルおじさん」が心を通わせる。5話とも壮大なスケールで心が温まる物語。過去の人々が残した思いを未来へ向かう希望へとつなげている。
 若い頃、海外のSF小説ファンだったという村山さんが専門誌「SFマガジン」(早川書房)の2022年2月号から23年6月号に連載した作品を書籍化した。
 タイトルは賛美歌にちなんでおり、「さやかに光る星の輝きを、旅の道しるべにして」と本文を締めくくった。村山さんは「旅には、人類の未来や人の人生などいろんな意味が重なっている。すべてを肯定し、存在が許されている物語。本の装丁もとてもきれい。子どもから大人までクリスマスの贈り物にぴったり」と話している。
 四六判、354ページ。1870円。

 【略歴】むらやま・さき 1963年生まれ。活水高、活水女子大卒。「ちいさいえりちゃん」で毎日童話新人賞最優秀賞、第4回椋鳩十児童文学賞を受賞。「桜風堂ものがたり」は2017年本屋大賞5位、「百貨の魔法」は18年9位。

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