「ビーリアルきた!」
通知音を聞いた佐々木稚菜(20)は、急いでスマートフォンを取り出した。
兵庫大(兵庫県加古川市)の教室。近くにいた友達2人が稚菜の下へ。顔を寄せ合い、自撮りでパシャリ。
外向きと内向きのカメラで同時に撮影され、窓外の風景と笑顔の稚菜らが一枚に収まる。送信ボタンを押し、友達とほほ笑み合った。
アプリ「BeReal.(ビーリアル)」は、1日に1回、スマホに通知が届く。そこから撮影までの時間は原則2分以内。写真は加工できない。ありのままの「いま」を共有する。
交流サイト(SNS)のインスタグラムと違い、「盛る」(見栄えをよくする)ことができないのが特徴だ。
2020年のフランス発祥。瞬く間に世界に広がり、日本でも学生を中心に爆発的にヒットした。
通知はアプリが管理。いつ来るか分からない。早朝の時もあれば、夕方の時もある。投稿しないと、フォロワー(登録した友達)の写真を見ることができない。
稚菜は昨年5月にビーリアルを始めた。フォロワーは信頼の置ける友達が中心。毎日の投稿を欠かさない。
寝起きに通知があれば、内向きカメラを手で隠して天井をパシャリ。化粧していない「すっぴん」姿を投稿することも。友達の写真が、湯を入れたばかりのカップ麺だったこともある。
インスタをよく使っていた高校時代は、写真を厳選し、加工してから投稿していた。ビーリアルを始めた当初は加工できないことに抵抗があったが、使っているうちに、飾らない方が面白くなった。
「いつ通知があるか分からないドキドキ感がたまらない。友達がいま、何をしているか見ると、うれしくなる」
■つながりっぱなしの社会に
かつて、目の前にいない人との交流は、固定電話が中心だった。
1980年代からのポケベルを経て、90年代後半から携帯電話が一気に普及し、メールが主流に。2010年代からはスマホの所有が広がり、現代はSNSやアプリが主役になった。
「フォロワー」「友達」の数が表示され、これまであいまいだった交友関係は可視化。LINE(ライン)などで、コミュニケーションの経過が記録されることも日常になった。
常にインターネットに接続する社会で、人とのつながり方も形を変えている。
■位置情報を把握「便利で楽」
加古川市の女性会社員(23)は、位置情報共有アプリ「whoo(フー)」を使っている。自分やフォロワーが現在いる場所を、スマホの地図上で互いに知ることができる。
大学生だった3年前、彼氏に使用を誘われたことがきっかけ。その時は常に情報を発信することが嫌で、断った。その後、周りの友達が使っていたのでダウンロードしてみると、思っていたより便利だった。
アルバイトしていた居酒屋では従業員間で使っていた。病気で急な欠勤が出ると、店側はフーで居場所を見て、家にいる人から順番に出勤できないか打診。遠くにいると連絡はなく、その配慮がありがたかった。
フーを使いだしてからは、待ち合わせ時間を細かく連絡しなくなった。相手が移動している場合は、車や電車に乗っていることも把握できる。あとどのくらいで到着しそうなのか、アプリを開けば分かる。
自分の位置情報を隠せる「ゴーストモード」の機能も。居場所の表示を動かないように固定したり、曖昧な位置にしたりと、設定すれば自分の位置を知らせないこともできる。
「昨日、ゴーストになっていたけど何してた?」と聞かないことは、暗黙のマナー。女性が登録しているのは友達ら10人程度。信頼できる人とだけ、位置情報を共有する。
女性は言った。「便利で楽。私にとっては、当たり前のコミュニケーション手段になった」=敬称略= (田中朋也、児玉芙友)
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オンラインで「つながりっぱなし」が日常の現代。若者たちの生活スタイルや考え方は変化を続ける。新しい時代を生きる世代の、リアルな姿を追った。