300年継承の「火様」消える 七尾・岩穴集落、孤立解消も「壊滅」

森田さんが「火様」を保管していた古民家は地震で損壊し、石垣も崩れた=5日午後1時、七尾市中島町河内地区

  ●全住民10人「もう帰れん」避難

 能登半島地震による被害で、七尾市中島町河内地区の岩穴(いわな)集落で300年以上燃え続けてきた囲炉裏(いろり)火「火様(ひさま)」の消失が5日、確認された。道路を寸断していた土砂や木が除去され、4日ぶりに孤立状態を解消したが、ほとんどの家屋が倒壊、道路には無数の亀裂が入り、のどかな風景が一変。「もう帰ってこれん」と10人の住民すべてが住み慣れた土地を後にし、集落には立ち入り禁止の赤いコーンが置かれた。

  ●珠洲に分火の火様無事

 河内地区は約40世帯が居を構え、最奥部に5世帯10人が住む岩穴集落がある。80、90歳代の高齢者が多く、1日に岩穴集落につながる一本道が土砂崩れで寸断されて孤立化。電気やガス、水も使えない中、集落内のカフェ「分福(ぶんぶく)茶釜(ちゃがま)」の冷凍品や飲料で食いつないできた。

 能登では囲炉裏の火を「火様」として守り続ける風習があった。ただ、生活様式の変化でほとんど廃れ、2016年に森田孝夫さん(74)=埼玉県所沢市=が火様を守る最後の一人から継承し、カフェに隣接する古民家で保管してきた。

 森田さんによると、地震発生時はカフェを切り盛りする妻の妹が古民家におり、激しい揺れで特注品のランプにともしていた火様が消えた。

  ●「ここで何とか復活を」

 ただ、森田さんは22年12月、珠洲市の男性と金沢市の企業に火様を「分火」しており、風習が途切れたわけではない。企業の火様も地震の影響で消えたものの、珠洲の火様は、男性が保管したランプを持って避難しており、無事だという。森田さんは「火様を3カ所で守っていて良かった。ここで何とか復活させたい」と話した。

 河内地区の住民約20人は地元の集会所に身を寄せているが、行政の支援物資が届かず、ボランティアが届けてくれる食料品や飲料、自家栽培の野菜などで食いつないでいる。

 河内町会長の井平秀一さん(65)は「市からは情報も物資も来ない。ガソリンがないのに物資をどう取りに行けばいいのか」と訴えた。

 ★火様 能登に伝わる囲炉裏の火を守り続ける風習で、家の中で燃やすことで外からの火を受けず、火災に遭わないとされる。中島町河内地区には約200年前に火をともしていた記録があり、そのさらに約100年前から火を守り続けてきたと伝わる。

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