能登半島地震「足を止めるわけにはいかない」要救助者発見も救えない現実…救助隊員の苦悩 「何とかできませんか?」親族らの願いも生存者捜索に次の現場へ=静岡市消防局

1月10日、静岡市消防局で、能登半島地震の被災地に派遣されていた緊急消防援助隊の活動報告が行われました。静岡市消防局の第1次派遣隊は1日の発災当日に出発し、2日から5日まで活動に従事。被害の大きさも分からないまま石川県珠洲市に向かい、安否不明者リストをもとに1軒1軒、要救助者の有無を確認していきました。

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<静岡市消防局 稲生貴久さん>
「“パンケーキクラッシュ”が多発していて、1階にいる人を見つけるのは困難を極めた」

被災地の過酷さを報告したのは、静岡市消防局の稲生貴久さん。道路が寸断される中、ヘリコプターで珠洲市に入りました。“パンケーキクラッシュ”とは、建物を支える柱などが地震の揺れで破壊され、上の階が下の階に落ちてパンケーキのような形になる現象。地域住民にここに誰が住んでいるのか聞きながら被災地を駆け回ったといいます。

<静岡市消防局 稲生貴久さん>
「(生き埋めになって)声が聞こえていたという情報もあったが、だんだんと声が聞こえなくなって生存確認ができなかった現場もあった。要救助者にたどり着けないことが多い」

救助活動の足かせになったのは、収まることのない余震です。家屋の中で挟まれている要救助者を発見しても、震度5強程度の余震が相次いで発生し、その度に二次災害を防ぐために緊急退避をしなければいけません。

<静岡市消防局 稲生貴久さん>
「1階部分がつぶれているので、隊員は這って体を突っ込んでいる状態。余震で家ごと崩れるかもしれないので他の隊員が足をつかんでおいて、余震があったら笛と拡声器で緊急退避を伝えると同時に、足を引っ張って引きずり出す」

稲生さんの部隊が発見した要救助者は合わせて6人。現場で脈を測るなどして全員の死亡が確認されました。発災当初は資器材も限られ、つぶれた住居から要救助者を外に出すこと自体が困難。死亡を確認すれば、まだ生きている人を探すために次の現場に行かなければいけませんでした。

<静岡市消防局 稲生貴久さん>
「本当に残念で苦しかった。でも一人でも多くの生存者を見つけるために、そこで1時間、2時間足を止めるわけにはいかない。助かる命が助からなくなってしまう」

救助活動中は、親族などが様子を見に来ることが多かったそうです。そこでは「どうですか?何とかできませんか?」と声をかけられたこともありました。

<静岡市消防局 稲生貴久さん>
「何とかしてあげたい気持ちはあったが決断しなければいけない。『大きな部隊を後から派遣するので待ってもらえませんか』と話して現場を後にした」

ただでさえ通常通りにはいかない被災地で、大きな苦悩を抱えながらの救助活動。現場での経験をもとに稲生さんは、被災地にいない人たちに災害への備えを呼び掛けます。

<静岡市消防局 稲生貴久さん>
「家がつぶれないようにまず耐震化は進めてほしい。タンスなど家具の固定も大切。また、被災者は衛生面での課題を抱えていた。携帯トイレや凝固剤、ビニール袋がセットになっているものもあるので、そうした物資を準備していただき、家がつぶれても取り出せるように2階以上に保管するなど対策をお願いしたい」

“一人一人が今できることを”と強く求めました。

まだ見つかっていない要救助者のために、緊急消防援助隊は全国から被災地に集結し続けています。1月10日も静岡市消防局から第4次派遣隊が出発しました。

<静岡市 難波喬司市長>
「現地は大変厳しく、救助活動も過酷な状況。一日でも早く、一人でも多くの方を救出してほしい。今の状況は訓練された人しか対応できない。皆様しかできない仕事。ぜひよろしくお願いします」

雪も相まって状況が刻一刻と変わる被災地。新たに17隊54人の部隊が人命救助を使命に活動を続けます。

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