〈1.1大震災~連載ルポ〉「能登の魂奪うんか」 輪島の会館、キリコ20基超損壊

地震の揺れで倒れたキリコ。約30基のうち20基超で被害が確認された=18日午後2時、輪島市マリンタウンの輪島キリコ会館

 能登の祭りの象徴であるキリコが無残な姿に変わっていた。18日、輪島市の輪島キリコ会館。館内に足を踏み入れると、大小20基超が折り重なるように倒れていた。地元の祭りで担ぎ出されるキリコも含まれており、今年の開催を懸念する声も。「地震は日常だけでなく、能登の魂まで奪うんか」。職員はやり場のない怒りをぶちまけた。(社会部・杉岡憲介)

 輪島キリコ会館は輪島港近くの輪島市マリンタウンに建つ。館内には江戸や明治に建造された貴重なキリコなど約30基が保管、展示されているが、職員も被災したため、これまで詳細な被害を確認できていなかった。

 「まさか、ここまでひどいとは」。職員の大下慎司さん(56)は暗闇に包まれた展示室を懐中電灯で照らし、目の前の光景に言葉を失った。高さ5、6メートルのキリコが行く手を阻むように横倒しとなり、漆塗りの担ぎ棒には痛ましい亀裂が刻まれていた。

 高さ12.3メートル、同館で最も大きい市指定文化財の「中島屋大切籠(きりこ)」も被害に遭った。天井からワイヤでつられていたため倒れはしなかったが、担ぎ棒と四本柱が折れ、大きく傾いていた。

 キリコ会館は1日も営業していた。当時、勤務中だった大下さんは、最初の地震を受けて被害状況を確認しようと2階へ。そこで強い揺れに襲われ、バタバタと倒れるキリコを横目に必死で屋外へ走った。「あの日以来、展示室に入るのが怖かった。思った以上に被害が出ていてショックだ」と無念さをにじませた。

  ●1基新造に1000万円

 館内には地元の祭りで担がれる現役のキリコも展示、保管されていた。大下さんによると、キリコの新造には1基当たり700万~1千万円程度かかる。日常生活が戻るめどすら立たない中、地元で多額の費用を捻出するのは簡単ではない。

 輪島で生まれ育った大下さんは、祭りを愛し、祭りに携わりたいとの思いから、2年前に金沢市の旅行会社を辞めてキリコ会館で働き始めた。「キリコは能登のシンボルであり、祭りは生活とも密接に関わっている。祭りができなくなってしまうと、みんなの心が折れてしまう」。大下さんは不安を口にした。

 「祭りや行事、人と人のつながりが能登を復活させる一番のモチベーションになる。それを支援するのが県の最大の仕事だ」。馳浩知事は12日、北國新聞社のインタビューにこう答えた。「今は知事さんの言葉を信じるしかありません。夏には祭りができる状況になってほしい」。大下さんは自らに言い聞かせるように語った。

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