終わっても走り続ける 育んだ結束の力を見せたい 長崎チームの選手らが創設「ヴィクトワール」

鷲尾さん(左)からアドバイスを受ける小中学生たち=長崎市営陸上競技場

 長崎新聞社主催で最後の開催となる第70回郡市対抗県下一周駅伝大会。その「終わりの時」に産声を上げたランニングクラブが長崎市内にある。小学生からシニアまで幅広い世代が集う「ヴィクトワール」は昨春、長崎チームの選手らが中心となって創設した。県下一周に終止符が打たれても、ランナーたちの交流のたすきはつながっていく。
 新年最初の日曜日、長崎市松山町の市営陸上競技場は和気あいあいとした空気に満ちていた。休み明けの体をほぐすシニア選手、お年玉の使い道を報告し合う小学生、練習を待ちわびたように靴ひもを結ぶ中学生…。年齢や立場が違うランナーが一堂に会するのは、今ではすっかりおなじみの光景となっている。程なく練習が始まり、緑豊かな外周コースに選手たちが散っていった。
 「何よりも陸上を楽しんでもらうのが一番。好きな人たちが集まれる場所、受け皿になればと思ってやっている」。クラブ創設の中心者で、今大会も一般区間を走る鷲尾優一さん(46)はそう言って汗を拭った。
 クラブ設立の経緯は約30年前にさかのぼる。県下一周出場を目指す社会人が自主的に集まり、練習するようになったのが始まりだ。ノー残業デーの水曜日の夜にメンバーがそろうことが多く、次第に水曜、日曜日が「練習会」として定着していった。
 練習場所の長崎市営陸上競技場は高齢者や家族連れらが集まる市民にとって大切な憩いの場。交通の利便性が良く使用料もいらない。さらに練習会は「来る者拒まず」の趣味サークルのような雰囲気がある。門戸を広げ、さまざまな立場のランナーが気軽に顔を出すようになった。
 こうした中、本年度から本格的に始まった中学部活動の地域移行がクラブ創設を促した。練習会には中学に陸上部がなくて困っている選手も数人受け入れていたため、一般選手たちで「彼らが試合に出られるように」と話し合ってクラブチーム化を決断。「ヴィクトワール」として立ち上げると、他のジュニア選手の加入も相次ぎ、今ではメンバー30人超の半数を小中学生が占めている。
 地域クラブは月謝が発生するのが一般的だが、ヴィクトワールは「今までやってきたことを続けているだけだから」と無料を貫いている。夏はバーベキュー大会や佐世保合宿、年末はクリスマス会も開催。大人と子どもが一緒になって絆を育んできた。
 今回はヴィクトワールから10人が長崎チームのメンバーに入った。壮年や大学生もほとんどが練習会のメンバーだ。いよいよ26日に号砲を迎える。「長崎チームは信頼でつながっているというところを見せたい」と鷲尾さん。結束の力を、最後の407.3キロで披露する。

© 株式会社長崎新聞社