私設組織「中居林火防組合」(青森・八戸市)活動111年 全国的にも貴重な存在

古里政男さん(前列左)や寺地さん(同中央)ら組合員
2007年に新築した中居林火防組合の屯所

 能登半島地震で役割が再認識されている自主防災組織。1913(大正2)年に設立された青森県八戸市中居林地区の「中居林火防組合」は、その先駆けともいえる私設の消防組織で、111周年を迎える今も拠点となる屯所を維持しながら、組合員の住民が火災予防や防災の啓蒙(けいもう)活動を続けている。専門家によると、私設消防組は戦後、消防団などに吸収・改組された地域が多く、「現在でも残っている地域はそれほど多くない」と全国的にも貴重な存在だという。

 組合が昨年作成した創立110周年記念誌によると、1910(明治43)年、防火思想の高揚を図るため、県警察部が県内に火災予防組合の設置を奨励。同市でも各地に火防組合がつくられ、中居林火防組合は13年2月に発足した。24(大正13)年の八戸大火でも消火活動に携わった記録が残るという。

 消防は戦後、市町村が運営することになり、私設消防組のほとんどが公設の消防団に移行した。だが同組合は私設組織に徹し、現在も市内唯一の火防組合として運営経費を捻出しながら屯所を維持管理。約20人の組合員がボランティアで活動を行っている。

 2021~22年に組合長を務めた市議の寺地則行さん(71)は「この地区は『中居林えんぶり組』があり、昔から住民同士の連帯感が強い。さらに火防組合の長い伝統や、屯所の一部を活用した家賃収入により財政が安定していたため、消防団に合流しなかった」と経緯を説明。「火防組合はえんぶりと並んで、地域のアイデンティティーを象徴する活動だ」と話す。現在3代目となる屯所は07年に新築。えんぶり活動の拠点としても活用されている。消防の装備は軽トラックと小型ポンプのみで、火事で出動することはめったにないが、組合員が定期的に地域を巡回し、安全、安心なまちづくりに貢献している。

 1997~98年の組合長の古里政男さん(77)は「火を消すのではなく、火事を出さないことが一番の目的。若い組合員が少ないのが課題だが、まだまだ火防組合の活動を続けたい」と意欲を語る。

 関西大学の永田尚三教授(防災行政)は、能登半島地震など大規模災害を念頭に「平常時の火災は消防本部で対応できるが、同時多発的に火災や救助事案が発生すると対応できなくなり、中居林火防組合のような組織や消防団が補完することが期待される」と存在意義を強調。「これらの組織を地域防災にうまく組み込む体制整備が必要だ」とアドバイスしている。

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