初の賜杯、大関で必ず 大相撲琴ノ若関・悔しさあらわ、精進誓う

たまり席で見守る二藤部後援会長=東京・両国

 東京・両国国技館で28日に行われた大相撲初場所の千秋楽で、尾花沢市出身の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)を父、師匠とする関脇琴ノ若関(26)が、来場所の大関昇進を確実にした。優勝決定戦で敗れ初の賜杯を逃し、悔しさをあらわにし「次につなげる」と話し強い向上心を示した。本県の家族、郷土力士同様に声援を送る県内ファンは堂々と頂点を争う姿にくぎ付け。「大関として次は優勝」と期待を膨らませた。

 優勝決定戦で敗れ、引き上げた支度部屋で、琴ノ若関はしばらく言葉が出なかった。唇を真一文字に結び、決定戦のVTRに目をやった。報道陣から心境を聞かれ、数十秒置いて「悔しい」と一言。「負けは負け。結果が全て」と続けた。本県からの応援に対しては「(優勝で応えられず)申し訳ない」。目が潤んだように見えた。

 本割を終えて横綱照ノ富士関と13勝2敗で並び、初優勝を懸けた決定戦へ。準備する支度部屋は緊張感に包まれた。表情を変えず、静かに呼吸しながら出番を待つ。合図がかかると、まわしをたたいて気合十分の様子で花道に出た。土俵では大声援が飛び交う中、横綱に敢然と挑んだ。だが、力及ばなかった。

 相撲部屋で育ち、幼少期からまわしを締めた。番付に初めてしこ名が載った2016年初場所で序ノ口優勝。白星が積み上がらず負け越したこともあった。新型コロナウイルス禍で無念の休場も経験した。それでも、日々の猛稽古と経験を血肉に変えた。昨年1年間は全6場所で勝ち越した。確かな実力と泰然自若の貫禄、鬼気迫る気迫を身にまとい、頂点に手が届く所まで上ってきた。

 父の佐渡ケ嶽親方は優勝決定戦の後、「横綱との場数の差が出た」とねぎらい「次は負けないだろう。優勝の楽しみは次に取っておく」と話した。貴重な経験により、一回りも二回りも成長できると強調した。

 初の賜杯にこそ届かなかったが、来場所は番付で父を超えることが確実となった。その上にあるのは、母方の祖父で先代親方の元横綱琴桜(故人)と同じ幕内最高位。26歳は「大関として精進し、来場所にリベンジしたい」と顔を上げた。より大きな花を咲かせるのはこれからだ。

「てっぺんへ足固めして」後援会長  佐渡ケ嶽部屋と琴ノ若関の両後援会長を務める二藤部洋さん(74)=おーばん社長=は、本県から駆け付け、千秋楽も琴ノ若関から顔が見える土俵脇の「たまり席」で見守った。

 今場所は取り口が安定して、どっしりと腰が低く、「自分の体勢で相撲が取れるようになってきた」と実感していたという。場所中も毎日本人と携帯電話でメッセージをやりとりし「相撲は集中。勝っても負けても我慢だよ」「気持ちを切り替えて」と精神面で支えてきた。

 惜しくも初優勝には届かなかったが、大関昇進を確実にした堂々の取り口だった。「目指すのはてっぺん(横綱)だが大関で足固めし、お父さん、おじいちゃん孝行をしてほしい」と笑みをこぼした。

 この日は同社の抽選で当選した買い物客や取り引き先が60人超、本県から応援に訪れた。「琴ノ若」の名前が入ったタオルを掲げるなどし、熱い声援を送った。

成長した姿に「よく頑張った」 尾花沢の祖父母  佐渡ケ嶽親方の出身地・尾花沢市で、親方の両親の今野芳夫さん(87)、とき子さん(85)は固唾(かたず)をのみ、自宅から孫の琴ノ若関の大関昇進と初優勝を懸けた大一番を見守った。

 琴ノ若関が1997年11月に生まれた際、とき子さんは千葉県松戸市の部屋で留守番する母親に代わり、九州場所が開かれていた福岡市内で1カ月間、孫の子守を任された。「あれから26年。重い荷物があれば代わりに運んでくれるような優しい子に育った。毎日毎日、重圧の中で戦っている姿を見ると、うれしさとともに、かわいそうだなという気持ちで、涙が出る」ととき子さん。芳夫さんは今場所の琴ノ若関の気力と体力の充実ぶりに目を細め、「体が柔らかく取り口に幅があり、投げ中心の攻めだった息子(佐渡ケ嶽親方)より力は上のような気がする」と語った。

 2人はテレビの前に座り、食い入るように翔猿関との一戦を見つめた。優勝決定戦では敗れたものの、とき子さんは涙をぬぐい「よく頑張った。まだまだ優勝のチャンスはある」。芳夫さんは大関昇進を確実にした孫に「これで親方を超えた。(母方の祖父)琴桜も生きていたら、喜んだだろう」と感慨深げだった。

尾花沢で30人、ため息と拍手・市主催のテレビ観戦  琴ノ若関の初優勝を見届けようと、尾花沢市の悠美館で開かれた市主催のテレビ観戦に市民ら約30人が駆け付け、大型スクリーンに映し出された中継を見ながら、声援を送った。

 「がんばれ琴ノ若」などと書かれたプラカードを掲げ、大一番を見守った。翔猿関を下し、優勝決定戦の前は会場の緊張感は最高潮となった。横綱との取組では、一挙手一投足に歓声が上がり、惜しくも土俵を割るとため息がもれた。ただ、地元ゆかりの力士の善戦に温かい拍手が送られた。

 襲名が期待される「琴桜」と書かれた自作のうちわを掲げて応援した同市延沢、会社員田村美香さん(53)は「力強い取組で感動した。横綱を目指して精一杯頑張ってほしい」と話した。今年の8月11日には同市サルナートで巡業が開催される見込み。結城裕市長は「新大関として、市民とともに歓迎したい」と話した。

買い物客も興奮・おーばん各店タイムサービス  二藤部洋社長が佐渡ケ嶽部屋と琴ノ若関の両後援会長を務める食品スーパー・おーばん(天童市)県内各店では激闘をたたえ、優勝決定戦直後から「勝どきタイムサービス」を開催し、多くの買い物客が活躍を喜び、セール品を買い求めた。

 山形市のおーばん山形嶋店では、午後5時前ごろから買い物客が勝利の瞬間を一目見ようと売り場のテレビに集まっていた。本割で翔猿関に上手投げで勝つと、店内には歓声が上がった。優勝決定戦では惜しくも敗れると、ため息がこぼれたが、直後からイチゴや国産ウナギ、ボイルホタテなどのタイムサービスが始まった。

 山形市千手堂、会社員中嶋邦尋さん(38)は「これまでも店内で観戦したことはあったが、これほど盛り上がったのは初めて」と話し、相撲が好きだという息子の出羽小5年耕大君(11)は「横綱相手に堂々と戦い、最後まで粘っていた。今回は残念だけど、大関になって次こそ優勝を狙ってほしい」と期待を込めた。

孫の琴ノ若関の13勝目を、手をたたいて喜び合う今野芳夫さん(右)ととき子さん=尾花沢市
大関昇進が決定的となり歓喜に包まれたテレビ観戦の会場=尾花沢市・悠美館
琴ノ若が勝利し、拍手で喜ぶ買い物客=山形市・おーばん山形嶋店

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