眼鏡や刃物…伝統工芸が集まる丹南地域の挑戦 北陸新幹線福井県内開業控え動き加速

眼鏡素材アクセサリー工房の前で観光関係者に工程を説明する吉川社長(手前)=1月16日、福井県鯖江市丸山町4丁目のキッソオ
観光客の受け入れも視野に新設した(左から時計回りに)レンズパーク、キッソオストア、佐々木セルロイド直営店のコラージュ=福井県鯖江市

 眼鏡素材の樹脂アセテートを削り出す機械音が響く。福井県鯖江市の眼鏡資材商社キッソオは2023年10月、社屋改装に合わせ、アクセサリー工房をガラス張りにし「見える化」した。眼鏡素材が指輪やブレスレットに生まれ変わる工程を来訪者に公開、加工体験もできる。

 同社は20年末にアクセサリー店を社屋横に開設。工房の開放はそれに続く魅力発信の改革だ。

 眼鏡枠製造で9割以上の国内シェアを誇る鯖江。ただ、関連企業の多くはOEM(相手先ブランドによる生産)主体のため、吉川精一社長は「職人や営業担当者の情熱が消費者に十分伝わっていない」と話す。

 北陸新幹線の県内延伸が迫る中、七つの工芸産地が集まる丹南エリアは「産業観光」が地域振興のキーワード。手仕事の奥深さを伝え、観光客を引き込む取り組みが各地で熱を帯びている。

 吹き抜け空間に色味の異なる300種類のレンズが並ぶ。1階にはカフェ、2階には家族連れもくつろげる休憩スペース。レンズメーカーの乾レンズが鯖江市の事務所隣に昨春整備した初の直営店「レンズパーク」は、眼鏡のまちの新たなランドマークとしてSNS(交流サイト)や観光情報サイトで注目を集める。

 諸井晴彦常務は「『鯖江の眼鏡』の知名度は恐竜や越前がににも引けを取らないのに、産地まで足を延ばす人は少ない。業界として、魅力発信や観光客受け入れ体制が十分ではなかった」と話す。レンズパークは自社製品の販売拡大につなげるだけでなく、眼鏡ファン誘客の起爆剤にしたい考えだ。

 眼鏡素材のアクセサリー、フレーム、レンズ…。北陸新幹線県内延伸を前に、鯖江の眼鏡業界では直営店を設ける動きが相次ぐ。眼鏡枠製造の老舗佐々木セルロイド工業所は2月14日、自社ブランドの販売店を社屋内にオープンし、加工場を巡るツアー受け入れも始める計画だ。

 業界の若手経営者たちは、市内の飲食店や宿泊施設にも協力を呼びかけ、産地挙げてのおもてなしを準備中。資材商社キッソオの吉川精一社長は「グルメや加工体験、グッズ購入を楽しみながら、眼鏡の奥深さにどっぷりと漬かる。まち全体を、そんな“眼鏡のテーマパーク”にしたい」と夢を描く。

■ ■ ■

 北陸新幹線越前たけふ駅がある越前市と鯖江市、越前町の丹南エリアは、漆器、和紙、刃物、箪笥(たんす)、焼き物、眼鏡、繊維の7産地が集積する伝統工芸のまちだ。15年に始まった産業観光イベント「RENEW(リニュー)」が火付け役となり、各産地で新ブランド創出や工房開放の動きが活発化。越前市では100を超す事業所が出展するクラフトマーケット「千年未来工藝祭」が毎年夏の恒例イベントに育った。

 産地を巡る上で課題となっている2次交通では、2市1町に南越前町を加えた4市町が23年末から定額タクシー事業を開始した。「官民、職人が一体となり、手仕事のまちが潤う循環を生み出したい」。リニューを手がける一般社団法人SOEの浜本絵里専務理事は力を込める。

■  ■  ■

 1月中旬。イギリス出身の観光コンサルタント業、アレキサンダー・ブラッドショーさん(44)=鹿児島県=が丹南エリアの各産地を巡った。2月中旬に越前市である観光事業者のセミナーで講師を務めることになり、現地の実情を知ろうと、事前視察した。

 内閣府クールジャパン事業や各地の観光振興に携わった経験があり、インバウンド(訪日客)や富裕層のニーズを熟知する。「職人の説明が長いよ。もっとシンプルに、感受性に訴えかけないと」。辛口の注文を交えながら、3泊4日の視察をこう総括した。「日本の伝統工芸、職人文化は欧米人にとってクールな存在。京都や金沢に比べて知名度は低いけど、工芸がこんなに集まった場所はほかにない。ポテンシャルを感じるよ」

⇒「【記者のつぶやき】眼鏡店は退屈?」を読む

企業誘致決定、開発さらに

 福井県越前市の北陸新幹線越前たけふ駅は、JR武生駅から東に約3キロの郊外に位置する県内唯一の単独の新幹線駅。新駅周辺エリアの開発が課題となる中、福井村田製作所(本社同市)の研究開発センターの進出が決まった。2026年1月末に完成予定で、将来的な従業員規模は約800人を見込む。市はこれを弾みに、飲食・商業施設の誘致を含めてエリア開発にさらに力を注ぐ。

 新駅周辺では、伝統工芸を生かした新たな事業創出につなげる官民連携の交流拠点「越前たけふ未来創造基地」(仮称)の整備計画もある。工芸マテリアルセンターや企業・大学の活動拠点を想定したオフィスなどを設ける予定で、市が年度内に基本構想を定める。

  ×  ×  ×

 3月16日の北陸新幹線福井県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」は第6章に入ります。テーマは「福井が変わる」。地域の特色を生かしたまちづくりや、県外客を意識した取り組みの現状と展望を探ります。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

© 株式会社福井新聞社