地域公共交通を持続可能な形に再構築する契機に 福井運輸支局長・髙桑宏之氏 「マイカー一択」から移動手段の多様化を

「新幹線県内延伸を、地域交通をリデザインする契機としてほしい」と話す国土交通省福井運輸支局の髙桑支局長=福井県福井市西谷1丁目の同支局

 バスやタクシーなど地域公共交通に関わる施策推進を担う国土交通省福井運輸支局。髙桑(たかくわ)宏之支局長(38)=福井県坂井市出身=は北陸新幹線県内延伸について「デジタル活用やサービス見直しによって、地域公共交通を持続可能な形にリデザイン(再構築)する契機としてほしい」と強調する。公共交通の利用促進を図り、QOL(生活の質)向上が進んでいくことに期待を示した。

 ―新幹線駅からの移動手段となるタクシーやバス、鉄道業界は運転士不足や高齢化といった課題が指摘されている。 「対策としては人材の採用、定着強化と路線やサービスの見直しという2正面の対応が求められる。採用、定着に関しては、運賃改定による賃上げのほか、女性や退職後のシニア層の活用に向けて多様な働き方を許容する人事制度など改善の余地がある。また、バス業界などで導入が進む交通系ICカードに蓄積される乗降データを分析することで、路線の再編も進めやすくなるだろう」

 「運転手が不足する中で『本当に乗り合いバスでなければお客さまを運べないのか』という議論も必要で、例えばスクールバスや自家用有償旅客運送の活用など、他の事業者と協力して解決策を見いだしていくことが必要だ」

 「福井県は、福井鉄道やえちぜん鉄道など地域公共交通に関する公的支援という点で全国をリードしてきたと県内出身者としても自負しているが、鉄道減便による利便性低下などの現況を踏まえると、事業者の努力に加え、行政の応援という点でもう一歩踏み込みが必要かもしれない」

 ―新幹線開業後、想定される課題と必要な対応は。 「金沢開業時の例を見ても、交通に限らず宿泊や飲食、観光施設においてキャパシティーを超えることが予想される。開業までの数十日でできることには限界があり、そのつど迅速に修正をかけられるかがポイントだ。一つは適切な値付け。例えばタクシーでいえば需給が逼迫(ひっぱく)した場合には、定額サービスの内容が過度にリーズナブルになっていないか検証が必要だ。事業者が疲弊する状況は望ましくなく、しっかり経済的コントロールを効かせて『稼げる』形にすべきだ」

 ―今後の地域公共交通に求められる役割は。 「新幹線開業を控え、県内ではタクシーやバスで配車アプリや交通系ICカードの導入が進んだ。日本の他の地方と比べても遜色ないレベルに近づいている。こうした流れを加速させていくことが住民や観光客の利便性向上につながる。従来の学生や高齢者利用に加え、観光客などの顧客基盤を分厚くしていくことが公共交通の持続可能性という点でも重要だ」

 「現状、福井では『マイカー一択』という傾向があるが、電車やバス、カーシェア、タクシーなど移動手段の多様化が進む契機になってほしい。自動車所有による金銭的な負担軽減、移動に伴うストレス減少を通じて、ウェルビーイング(心身の健康や幸福)の向上にもつながっていくはずだ」

たかくわ・ひろゆき 1985年、坂井市生まれ。丸岡中、藤島高、東京大法学部卒。2008年に国土交通省に入省し、公共交通政策部交通計画課長補佐、まちづくり推進課都市開発金融支援室企画専門官などを歴任。18年から金沢市に3年間出向し、都市政策局担当部長兼企画調整課長、交通政策部長として宿泊税の使途や新しい交通システムの検討、バス運転手不足対策などに当たった。23年4月から現職。  ×  ×  ×

 3月16日の北陸新幹線福井県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」は第7章に入りました。テーマは「福井へのエール」。食や2次交通、まちづくりなど各分野の関係者6人に開業への思いや期待を聞き、福井の発展の可能性を探ります。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

シンフクイケン・各章一覧

【第1章】福井の立ち位置

【第2章】変わるかも福井

【第3章】新幹線が来たまち

【第4章】駅を降りてから

【第5章】ハピラインにバトン

【第6章】福井が変わる

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