<6>心開ける似た境遇の友 外の居場所「月の家」 希望って何ですか

月の家の友達やスタッフと散歩で県庁を訪れた千秋さん(左)=2023年12月中旬、県庁

 宇都宮市内の集合住宅で、生活保護を受けながら母子4人で暮らす千秋(ちあき)さん(14)=仮名=は今春、中学3年生になる。高校進学を控えた節目の時期だ。

 2歳年上の兄は中学校にほとんど通わず、進学しなかった。千秋さんの2歳年下で小学生の弟もまた学校にはあまり通っていない。

 千秋さんはたまに登校する日もあるけれど、一日の大半は家の中にいる。目が覚めるまで寝て、起きたらご飯を食べる。後は特に目的もなく過ごす。

 行けないのでも、行かないのでもない。千秋さんには、学校に行く習慣がないに等しかった。

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 引きこもるような生活を送る千秋さん。でも週に2回、外に出る機会がある。市内にある子どもの居場所「月の家」へと向かう。

 子ども食堂や学習支援教室など、市内では子どもが安心して過ごせるさまざまな「居場所」が開設されている。

 月の家の対象は、特に濃密な支援が必要な貧困や親の病気などで十分な養育を受けられていない子ども。放課後に、食事や入浴など家庭の状況に応じて生活支援を行っている。

 千秋さんはここに小学3年から通っている。同じように利用する小中学生やアルバイトの大学生とボードゲームをしたり、お散歩をしたり。学校に行かない日も、たまに行った日も、ここに来たら思いっきり遊ぶ。今では「親友」と呼べる友達もできた。

 学校にも行けば話をする友達はいるけれど、大半の同級生とは距離を取ってしまう。家に呼んだことはないし、そうならないような、なんとなく踏み込まないで済む付き合い方。それが疲れるとも感じる。

 「月の家では壁を作らずに気軽にしゃべれる」

 互いの家庭の状況を話すことはほとんどない。でもなんとなく、みんな自分と似たような環境にいることは分かっている。きっと不登校気味だったり、家の中がごみでいっぱいだったり、お金に余裕が無かったり。

 だからかもしれない。気負わずに、友達とはしゃぐことは何より楽しい。

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 昨春、今も月の家に通う双子の兄弟が高校に進学した。ここに来るたび、学校での様子を楽しそうに話してくれる。千秋さんの一つ年上、中学3年生の男の子は現在、高校進学を目指し受験期を迎えている。

 学校に通い続けたきょうだいがおらず、ずっと高校に進学するイメージを持てずにいた千秋さん。それが家の中では当たり前のことでも、気がつけば、似たような環境にいる人でも高校に進む人は進んでいる。

 「もしかして、私も行けるのかな」

 最近になって、そんな気もしてきた。まずは、登校する回数を少し増やしてみようと思い始めている。

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