【ミャンマー】徴兵制、若者に広がる絶望感[社会] 「賄賂」も検討、強制連行を恐れ

査証(ビザ)を求め、ヤンゴンのタイ大使館前に長時間並ぶ人も多い=19日、ミャンマー(NNA)

ミャンマーで国軍が発表した徴兵制を機に、兵役対象となった若者がビザを求めて隣国タイの大使館に列を成している。徴兵を逃れる数少ない選択肢の中で、金銭による徴兵回避を検討する人もいる。正式な徴兵開始は4月以降とされるが、すでに「強制連行」が始まっているとのうわさが流れているようだ。悪くなる一方の現状に絶望した若い世代の間では、精神的支柱の宗教への帰依心の揺らぎも見られ始めている。【丹下詩織】

最大都市ヤンゴンに住む女性(23)は、「徴兵制が発表され、自分が対象に該当すると知ったとき、今すぐ逃げるべきかと考えた」と語った。すぐに両親と相談したという。徴兵されないために、関係者に金銭を渡すことを考えていると打ち明けた。

まずは合法的に出国する方法を調べたが、渡航可能性が最も高いタイでも、安定して暮らす生活費を工面し続けるのが難しいと分かった。他には、非合法的に出国するか、学生の身分に戻るか、国民防衛隊(PDF)の兵士となるか、という選択肢しか残されていないという。

この女性はクーデター後、大学の同級生が「親友がデモに身を投じ国軍に殺された」と話したことをきっかけに、市民不服従運動(CDM)に参加した。徴兵を受け入れて、市民に銃を向ける国軍に加わるという選択は念頭にない。総合的に考えて、出国するより金銭的負担が少ないと思われる「賄賂」を選ばざるを得ないと結論付けた。

一方、別のヤンゴン在住の女性は、「金銭で徴兵回避ができるかはまだ分からない」と言う。ミャンマーでは公務員に賄賂を渡して便宜を図ってもらうのは一般的な話だが、徴兵制の施行直後で情報が少ない中で「回避の可否や金額を議論するのは時期尚早だ」との見方を示した。

■「強制連行」のうわさ広まる

23歳の女性によると、徴兵対象に該当する若者の間では絶望的な空気が広がっている。「周囲はあまりに打ちのめされていて、親しい友人とも深い話ができない」ほどだ。彼女自身、「数日眠れなかった」と、目の下に濃いくまができていた。

正規の徴兵のほかに、国軍が若者を突然連れていって兵士にする「強制連行」が横行しているとの臆測が飛んでいることも、若者の不安をあおっている一因だ。

ヤンゴンの日本語学校の関係者は、強制連行は現時点ではあくまでうわさだとした上で、学生の間に不安が広がっていると打ち明けた。連行は夜間に多いとされる。この学校では、「遠方から通う学生も外が明るいうちに帰宅できるよう、授業時間を繰り上げた」という。

米系メディアのラジオ・フリー・アジア(RFA)は、ヤンゴンのタンリン郡区の住民の話として、徴兵制施行の告知以降、国軍と親国軍派の民兵組織によって、少なくとも25人の若者が徴兵のために連行されたと報じた。中部のバゴー地域やマンダレー地域などでも同様の報告があるという。

■信仰への懐疑心も

「神や仏を信じていても、悪人に天罰を与えてくれない」——。ヤンゴンの23歳女性は、悪化の一途をたどる国内状況に絶望し、宗教への帰依心が薄らいでいる若者が多いと語った。

ミャンマーでは人口の9割近くを仏教徒が占める。あつい信仰心を持つ人が多く、仏教の教えに従って、功徳を積むための行いをしたり、寺に食べ物を布施したりするのが一般的だった。

だが、この女性の周囲では仏教徒でも他宗教の信仰者でも、「救ってくれる神がいるなら、どんな宗教にでも改宗する」と公言したり、実際に信仰を捨ててPDFに加わることを示唆したりする若者も出てきているという。彼女自身は、敬虔(けいけん)な仏教徒の両親の影響で毎晩の祈りを欠かさないが、仏教への信仰を意識せずに生活するようになってきたと心境の変化を吐露した。

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