「人生を取り返したい」 神父から性被害受けた女性 救い求めた信仰で味わった絶望 長崎

1月の第1回口頭弁論を前に、支援者らに「真実を見守ってほしい」と話す原告の女性=東京都、弁護士会館

 10代のころに受けた性的虐待と、50代の時に長崎などで外国人神父から受けた性被害。親類や世間に知られるかもしれない-。少女時代から苦悩を抱えてきた東京都在住の看護師の女性(63)。自身の価値が見いだせず、絶望して眠りにつけない夜が今なお続く。

◆高笑いした母
 始まりは高校生の時。自宅に出入りしていた母の交際相手の男から数年間、性的虐待を受けた。「やめてほしい」。誰にも相談することはできず、唯一、日記に思いを吐き出していた。
 ある日、母が日記を目にして高笑いした。「あんたも大人になったのね」。寄り添う言葉も助けの手が差し伸べられることもなかった。父からは責められた。
 なぜか眠れない。夜に目覚め、絶望感に苛(さいな)まれる。長年、そんな症状に苦しんできた。結婚して娘が生まれてからも続いた。理由は分からないまま、ただ必死に毎日を過ごしてきた。

◆「このまま殺される…」
 性的虐待のトラウマ(心的外傷)や父の介護での心労が重なり、洗礼を受けたのは31歳のころ。40歳の時、夫の仕事の都合で長崎市に移住。市内の教会の早朝ミサへ通うようになった。長崎の信徒らの信仰深さに心を引かれたからだ。
 同じころ、看護の基礎知識を学び、症状の原因が10代のころの忌まわしい経験だと分かった。心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断され、克服には信頼できる人にトラウマの体験を話すことがいいと知った。
 2012年12月。通っていた教会の外国人神父にかつての性的虐待を告解(こっかい)(ゆるしの秘跡)で打ち明けた。「あなたはやり直しをしなければならない」。神父はそう言い「霊的指導」と称した性交を強いた。そんな日々が13年夏から約4年半続いた。
 「気持ちを聞いてもらえば苦しさから逃れられると思い込んでいた」。変だと思い、「嫌だ」と直接伝えたこともあった。性交を拒むと首を絞められ「このまま殺されてしまうかもしれない」と恐怖を感じた。性交時の動画を撮影され、リベンジポルノ(報復目的の公表)の不安にかられた。心の救いを求めた信仰は、絶望に変わっていった。

◆闘う決意
 カトリック長崎大司教区に被害を訴えたのは18年12月。神父が所属していたカトリック神言修道会(日本管区本部・名古屋市)が女性の訴えを受けて聞き取った際、神父は性交を否定。その間に辞職したという。女性は昨年11月、同修道会が適切な対応を取らなかったなどとして、3300万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴。同修道会側は請求棄却を求めて争う構えだ。
 女性は現在、長崎市を離れ、治療を続けながら東京で働く。提訴を機に、夫や娘に被害内容や裁判で闘う決意を伝え、実名を出すことも応援してくれている。
 「もう63歳。時間の余裕がありません」。長年の苦しみを拭い去ろうと、女性は本紙の取材に応じた。「少しでも前向きに生きることができれば、自分が存在していることを実感できるかもしれない。人生を取り返したい」

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