定額減税で事務大変「政権の人気取りのためか…」 給与明細に減額分表記義務 福島県内企業、市町村業務複雑経費増も

定額減税の仕組みをまとめた国税庁の資料。県内各企業が対応におわれている

 6月から始まる所得税と住民税の定額減税を巡り、支給の実務を担う福島県内の企業や市町村の会計担当者に混乱が広がっている。企業は給与明細への減税額記載を求められ、市町村は扶養家族の人数などによって変わる納税額の細かな算定や現金給付など膨大な業務が必要なためだ。現場には「政権の人気取りで作業を押し付けるのはやめてほしい」など不満が渦巻く。

 定額減税のイメージは【表①】の通り。所得税は6月に減税し切れない場合、7月以降も計3万円になるまで順次差し引く。住民税は6月分を一律0円とし、7月から来年5月までの11カ月をかけ、年間の税額から減税分に相当する1人当たり1万円を差し引いた額を均等に徴収する。各企業には【表②】の通り、所得税の減税額を給与明細に明記するよう義務付けられる。

 「政府の都合で企業や自治体に作業を押し付けるのはやめてほしい」。県内に本社を置き約2200人の従業員を抱える小売業の担当者は減税の仕組みをまとめた国税庁の資料を見ながら、ため息をつく。今回、全従業員の扶養人数を再確認する作業が生じた。給与計算システムを100万円かけて改修。6月上旬の支払いに向けた最終確認に入り、担当者らの5月の残業時間は通常より30時間程度増えた。企業の経費負担が増している。担当者は「自らの所得税を意識している社員は少ない。減税を実感しにくいのではないか」と効果を疑問視する。

 双葉郡にある建設会社も担当者が従業員一人一人の配偶者や扶養者を確認し、給与を再計算した。「6月まで時間がない。現金の定額給付にした方が企業の手間が少なく、ありがたいのに…」と打ち明ける。

 非課税世帯に加え、低所得のために減税額が本来の納税額を上回る場合は現金給付となる。給付事務を担う市町村では住民の受取口座確認などの業務が必要だ。福島市市民税課の担当者は「速やかに、正確に給付するためどのような方法がいいか検討している」と模索を続ける。

 三島町は事務量の増加を見越し、税務担当の職員に加えて会計年度任用職員にも携わってもらう方針。現金給付の対象世帯数がまだ算定されておらず、事務負担は見通せていない。

 一般県民からも疑問の声が上がる。田村市の飲食業男性(70)は給与明細への減税額明記を義務化した政府対応を「恩着せがましい」と批判する。「これまでの給付金などで使ったシステムがあっただろう。これでは選挙のためにやっていると言われても仕方ない」とつぶやく。

※定額減税 賃金上昇が物価高に追い付かない中、消費を刺激するため岸田政権が打ち出した目玉施策。対象は年収2千万円以下の納税者と扶養家族で、減税額は1人当たり所得税3万円、住民税1万円。ともに6月から減税される。所得税と住民税を納めていない非課税世帯に対しては世帯主7万円、18歳以下の子ども1人当たり5万円などの現金給付がある。

© 株式会社福島民報社