【インド】コクヨ、キャンパス投入検討[製造] 「早い時期に」、直営店も選択肢

コクヨは今月、インドで期間限定ショップを開店し、主力ブランド「キャンパス」製品も販売した=5月、インド西部ムンバイ(コクヨ提供)

少子化が進む日本市場の伸び悩みを背景に、文具メーカー大手コクヨがアジア販売を強化している。消費者ニーズを探るため、インド西部ムンバイで今月、期間限定ショップを同国で初めて開店。バインダーやノート、ペンケース、カラーマーカーなど約380種類の製品を並べ、期間中に800組超が来店した。インド子会社コクヨカムリンのシニア・コーポレート・オフィサー、糸口貴氏(48)がNNAの単独取材に応じ、親会社の主力ブランド「キャンパス」製品について「早い時期のインド投入を検討したい」と言及。投入方法については「直営店も選択肢の一つ」と話した。

——ショッピングモールで6~12日の7日間、ポップアップショップ(期間限定ショップ)を開店した。

インドはまだ新興市場。文具に対し、高い金額で購入する客層がいるかを把握するためにやった。多くのお客さんに足を運んでもらい、購入客数や購入金額に手応えがあった。お客さんの声はポジティブなものが多かった。

私はインド事業に携わり通算約10年になる。インドのお客さんは「安いものをいかにうまく買うか」を大事にすると思っていた。それが崩されて驚いた。デザインや機能など付加価値が高い製品を受け入れる客層がいると確証を持った。そうした感覚・感性を持つ若者がこれからも確実に増える。

——数字的にも成功したのか。

(2023年にポップアップを開店した)マレーシアやタイを参考に、売上額や来客数といった数値目標をいくつか決めた。目標は全てクリアし、想定以上のリアクション。1人当たりの購入金額もマレーシアやタイに比べてそこまで低くなかった。

タイやマレーシアだと親が興味を示して子どもに製品を勧めるシーンが多かったようだが、インドは子ども本人が興味を持って手に取る場面が多かった。あと意外にも、ビジネスマンが多く来店し、ペンなどを買った。

——どんな製品を販売したのか。

「キャンパス」製品をはじめ、中国で販売中の製品が8割、日本で販売中の製品が2割。基本的に全てインド初披露だった。売れ行きが良かったのは、一番がペンケースで、次にノート、その次にバインダーだった。予告で出店を知って来た人は2割、残り8割はモールに来た際に気付いて来店した。

コクヨの中国事業は進出当初こそ苦戦したが、10年代に女子中高生にターゲットを絞り製品を出し続けたところ、今はブランドがすごく立っている。付加価値が認められ、コクヨの成功例になった。今回、中国の製品はデザインや機能をそのままインドに持ち込み、テストした。

■採算性、どれだけ読めるか

NNAの単独取材に応じたコクヨカムリンのシニア・コーポレート・オフィサー、糸口貴氏=5月、ムンバイ(NNA撮影)

——「キャンパス」製品への反応はどうだったか。

販売価格がある程度高いにもかかわらず、お客さんが買う姿を見て、驚きとともにうれしかった。コクヨが11年にインド進出後、同国独自デザインの「キャンパスノート」を一時販売したことがあったが、短期間で終わった。マーケティング不足などいろいろな理由があり、うまくスケールしなかった。今、インドで「キャンパス」製品は売っていない。

——現在インドで販売する製品は、コクヨカムリンによる現地生産ブランドの「キャメル」と「カムリン」が中心だ。「キャンパス」製品の販売は考えているか。

ポップアップで反応が良かった。早い時期のインド投入を検討したい。投入する際、直営店か、既存の流通網活用か、オンラインか、まさに考えどころだ。採算性をどれだけ読めるか。いくつかの選択肢を検討する。

本当に早ければ数カ月後に投入する可能性もあるし、1年たって何もできず見送りという可能性もある。投入当初はインドですぐに造れないので、中国や日本の工場から輸入し、ある程度高い価格で売ることになるだろう。将来的にはどこまで現地生産できるかが課題だ。

——マレーシアで25日、東南アジア初となるコクヨ文具の直営店が開店した。中国にも直営店が2店ある。

「キャンパス」製品の投入方法として、インドで直営店を出すことは当然、選択肢の一つだ。今後検討する。

コクヨカムリンは、製品の90%以上を街の文具店やキラナ(零細商店)で販売している。そこに「キャンパス」製品の2~3種類をポロッと置いたところで、誰も買わない。世界観にひかれて購入するお客さんが多いと思うので、直営店を出す場合、悩ましいのはどのモールに出店するか。きれいなモールに、きれいに製品を並べないといけない。

期間限定ショップは、5月6~12日の7日間、ムンバイのショッピングモール内で開店した(コクヨ提供)

■顧客変化を捉えて先回り

——インド市場の特徴は。

消費者は「お買い得」に価値をすごく感じる傾向がある。また文具業界は、価格が安いことにお客さんが価値を感じてしまう特性が強い。例えば、「多色10ルピー(約19円)のクレヨン」は値上げしにくい。価格がお客さんにインプットされている。過去に「12色10ルピー」を「10色10ルピー」にするなどして努力してきた。

インド進出後の13年間を振り返ると、消費者の所得は上がっている。専門機関の各リポートを読むと、この先も、お金に比較的余裕があり、人生を楽しむ力を持つ中間所得層は加速度的に増える。

これからの戦い方は従来と違う部分が出てくる。「10ルピー」の価格を上げるかもしれない。付加価値が高い市場で成長を目指す。顧客志向の変化を捉え、先回りした消費体験を提供する。

——インドの若者は勉強熱心だ。

学校から帰って、すぐに塾に行って、1日計12時間以上勉強する。ムンバイなど大都市は少子化が始まっていて、弊社社員の家庭も一人っ子が多い。そうすると、親の教育熱が一人にいく。良い学校、良い塾に行かせ、休日でも塾や家で勉強する。

若者が抱えるプレッシャーも高いと思う。貧富関係なしに教育は人生を変えると皆が信じている。貧しい家庭でも、親は自分が買いたいものを我慢し、教育費に回す。子どもはその期待に応えようとする。

ストレスもある学習に対し、気分が上がったり、スラスラ書けたりする文具を提供してサポートしたい。(聞き手=鈴木健太)

約380種類の製品を並べ、7日間で800組超が来店した期間限定ショップ=5月、ムンバイ(コクヨ提供)

<メモ>

コクヨは11年7~10月、絵の具や算数セット、マーカーに強みを持つ地場文具メーカー、カムリンの株式50.3%(現在は74.44%保有)を取得し、インドに進出。カムリンの社名を「コクヨカムリン」に改めた。

コクヨカムリンの本社はムンバイで、開発やマーケティング機能を置く。自社工場は西部マハラシュトラ州に2カ所、北部の連邦直轄地ジャム・カシミールに1カ所。

製品は卸売会社を通じ、小売店にわたる。コクヨカムリン製品を扱う卸売会社は約1,500社、小売店は街の文具店や零細商店など約14万店。クレヨンやシャープペンシル、算数セットの販売は国内トップシェアか、それに準ずる位置にいる。

23/24年度(23年4月~24年3月)の純利益は前年度比79.3%増の4億ルピー、売上高は5.3%増の81億ルピー。売上高は過去最高となり、買収時から2.2倍以上になった。

コクヨは、インド子会社をもう1社持ち、社名はコクヨリッディペーパープロダクツ。完全子会社で、米国や中南米、アフリカ向けなど、輸出用ノートのOEM(相手先ブランドによる受託製造)をしている。

<プロフィル>

糸口貴(いとぐち・たかし) 1975年7月生まれ、48歳。兵庫県出身。同志社大学卒。98年4月、コクヨ入社。大阪営業部の文具担当や社長秘書、インド進出戦略担当、コクヨカムリン出向、会長室を経て、2019年5月からコクヨカムリン再出向。

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