「じいちゃんの思いを店で」 長崎の被爆4世が飲食店を開業 平和について語り合う場に

開店に向けて準備する堺康徳さんと母の真紀さん=長崎市平和町

 長崎原爆の犠牲者を追悼するため被爆者らが設置した「長崎の鐘」がある平和公園に近い長崎市平和町に6月1日、新たな飲食店がオープンする。経営する堺康徳さん(27)は被爆4世。祖父の野口伸一さんは3月に76歳で亡くなるまで、県被爆者手帳友の会の「二、三世の会」代表として、核兵器廃絶や平和の実現を訴えてきた。堺さんは「じいちゃんの思いを店で引き継ぎたい」。食事を楽しみながら平和について語り合う。そんな店を思い描く。
 野口さんは被爆2世として、被爆者と共に活動してきた。けれども、堺さんは野口さんから活動に誘われたことはなかったという。「自分の意思で歩み出すまで見守っていてくれたのでしょう」
 転機は2019年。堺さんは会社に就職し、広島に赴任した。休日にふと原爆ドームを訪ねた。熱線と爆風で大破した遺構の前に立った時、原爆によって人がどのように傷つけられ、街が破壊されたかが目に浮かぶようだった。平和の尊さが実感を持って胸に迫ってきた。
 その年の夏、堺さんは野口さん、母の真紀さんと3世代で一緒に長崎の鐘を初めて鳴らした。

長崎の鐘を鳴らすロープを一緒に握る堺康徳さん(中央)と祖父の野口伸一さん(右)=2023年8月6日、長崎市の平和公園(堺さん提供)

 友の会は毎月9日(8月は6~9日)に平和公園で長崎の鐘を鳴らす活動に取り組んでいる。野口さんは晩年に体調を崩した後も参加し続けた。炎天下の昨年8月も「行かなければ」と、堺さんに付き添われて足を運んだ。鐘を鳴らし終えると、その場に倒れた。この時が最後の参加となった。
 「しんどかったろうに。それでもじいちゃんは訴えずにいられなかったんだ」。野口さんから強い思いを託されたように感じた。
 昨年1月、堺さんは起業を志して独立し、長崎に戻った。試行錯誤を経て、目指すのは、平和活動とビジネスを掛け合わせて相乗効果を発揮する持続可能な店だ。若者に気軽に足を運んでもらえるように1品を500円以下に抑える。真紀さんが厨房(ちゅうぼう)に入り、卵料理を中心にした居酒屋メニューをそろえる。平和をコンセプトに学生がデザインしたTシャツやグッズも販売する。
 店名は「サニールーチェ」と付けた。「太陽の光」という意味だが「灯台の光のように暗い中で目印となり、太陽のように明るく、笑顔になれる空間にしたい」という願いを込めている。
 営業時間は金・土・日曜日の午後6時~9時。問い合わせは同店(電095.808.1360)。

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