釣り竿生産で印刷会社再起 氷見、工場被災もあきらめず

6月から生産が始まる釣り竿=氷見市阿尾の工場

  ●「魚のまち」ブランドに 日本海側初 大手メーカーから受注

 能登半島地震で大きな被害が出た氷見市阿尾の特殊印刷会社「トライ・プリント」が、6月から大手釣り具メーカーからの受注で釣り竿(ざお)の本格生産を始める。工場が被災し、一時は生産を諦めかけていたが、再起して震災から5カ月を経てようやく生産にこぎ着けた。寒ブリに代表される「魚のまち」として知られる氷見にふさわしいブランドの釣り竿を生産し、新たな産地に成長することを目指している。

 特殊印刷や塗装のほか、設計からデザイン企画、金型、成形請負、二次加工を総合的に行う技術力に白羽の矢が立ち、釣り竿や釣り針などを扱う大手釣り具メーカーから受注した。同社によると、メーカーの釣り竿を生産するのは日本海側で初めてという。

 同社は新規事業の釣り竿を生産するため、大手釣り具メーカーの県外工場に昨年6月から従業員を断続的に派遣し、昨年12月には生産管理担当の中村晋作次長(32)が3週間泊まり込みで研修を重ねてきた。昨年秋に氷見市七分一で「技術開発センター」を稼働させたが、地震で建物が沈み、壁にも亀裂が入るなどの被害を受け、4月から始める予定だった生産の環境が整わなくなった。

 震災で生産を諦めかけたが、液状化被害が深刻な市街地の被災住民が奮闘する姿に刺激を受けた中村豊社長が「うちも前を向いてやるしかない」との意を強くして大手釣り具メーカーに掛け合い、メーカー側も理解を示した。

 春先から第2工場で研修を再開させ、5月下旬からメーカー社員による生産前の最終指導を受けるなど準備を進めてきた。

 釣り竿は塗装一つとっても筆の当て方次第で変わるなど熟練技が必要で、同社はカーボン素材の研磨や洗浄から、特殊塗装、印刷加工など41工程で技術力を生かして高品質な釣り竿の生産を進める。当面は月産2千本以上を見込む。

 釣り竿は一本ごとに名前が付いており、同社は生産が軌道に乗った段階で氷見の冠がついたブランドの釣り竿の生産を目指す。中村社長は「諦めずにやってきて良かった。ピンチをチャンスに変えて、氷見の名前を入れた釣り竿を作り、氷見の産業にしていきたい」と力強く語った。

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