●何より励み、癒やしに
地震発生後、石川県内の被災地には2度にわたって天皇、皇后両陛下がご訪問された。「多くの住民に声を掛け、目を合わせてうなずきながら言葉に耳を傾けていた姿は、被災者の皆さんにとって何より励み、癒やしになった」。全行程に付き添った馳浩知事が北國新聞社の取材に、間近で接した両陛下のエピソードを明かした。
両陛下は3月22日に輪島、珠洲両市、4月12日に穴水、能登両町を訪問した。馳知事が特に印象に残ったとするのは、穴水町川島の商店街を歩いていたときの出来事だ。
通り沿いの美容室の中から、女性たちが歓声を上げて手を振っているのが見えたという。陛下は雅子さまと共にほほえみながら手を振り返し、店の前を通り過ぎた。ところが、後ろを振り向き、知事に思いがけない言葉を掛けた。「中に入ってもよろしいですか」
●自身で扉開け
馳知事が驚きながらも「どうぞ。ぜひお声掛けください」と返答すると、陛下は自身で扉を開けた。宮内庁が決めた厳格な行程にはない、いわば「アドリブ」。知事は「びっくりして、ドアを押さえるのがやっとだった」と明かす。
店内では「きゃー、天皇陛下だ」「雅子さま、お美しい」と興奮する美容師や地元客を、両陛下は「本当に大変でしたね」「水は大丈夫ですか。いつからお仕事を始めたのですか」と落ち着いた声でねぎらった。
滞在時間は2、3分。それでも、真摯(しんし)に話を聞くお二人の姿に、知事は「被災者の皆さんは『自分たちを理解してもらえた』と思えただろう。われわれも頑張らないといけないという気になった」と感謝する。
訪問がともに日帰りだったのは被災地の負担を避けたい両陛下の意向だ。昼食の弁当から、移動のマイクロバスまで「持参」する徹底ぶりに感銘を受けたという。
バスで移動する際、沿道から「愛子さま~」と、その場にはいない両陛下の長女を呼ぶ大きな声が飛んだことがあった。車内で陛下が「ほら、愛子、って呼んでますよ」と横の雅子さまに笑いかけ、雅子さまも「あら、まあ」とうれしそうに相づちを打った。信頼関係がにじむ様子に、乗り合わせた人に笑顔が広がった。馳知事は「能登の皆さんの感謝と、お二人に対する愛情あふれるまなざしは伝わったと思う」と振り返った。