JR佐世保線・陣の内 踏切拡幅求め8年 着工時期未定、住民の不安続く 

4月に脱輪事故があった、陣の内踏切。道幅が狭く、周辺には小中学校があり通学路にもなっている=佐世保市陣の内町

 地域住民が拡幅を求めてきた佐世保市のJR佐世保線・陣の内踏切が、要望から8年を経てようやく整備される見通しになった。道幅が狭く、事故が不安視される中で4月には踏切内で脱輪事故が発生。住民たちは「大きな事故にならずよかった」と胸をなで下ろすが、整備時期は分かっておらず「人身事故が起きてからでは遅い」と一刻も早い拡幅を求める声が上がる。
■ 脱輪事故
 踏切は交通量の多い早岐地区の国道35号から細い市道に入り、上陣の内地区の住宅街に向かう途中にある。道幅は、もっとも狭い所では約2.3メートルしかなく、車同士の離合はおろか大型トラックも通行できない。住宅街方向には早岐中学校があり、通学路にもなっている。
 4月19日朝の通勤時間帯に起きた脱輪事故は、50代男性の普通自動車が踏切内で脱輪、立ち往生した。JR九州は注意喚起のため、以前から縁石部分に安全ポールを立てていたが「古くなり、いつの間にかなくなった」(住民の一人)状態だったという。けが人はなかったものの、近くに住む松尾敏春さん(66)は「現状の踏切では、いつ人身事故が起きてもおかしくない」と心配する。
 地元住民は危険な状況を黙認していたわけではなかった。さかのぼること8年前。上陣の内町自治会は市に拡幅を求める要望書を提出。要望書には「見通しが悪く、車も歩行者も安全に通行できない」「住民の高齢化が進み、緊急車両の通行に支障がないか心配」などと窮状を訴える言葉が並ぶ。
■ 長い年月
 事態が動きだしたのは2022年11月。JR九州と協議を重ねてきた市は地元住民に拡幅の具体的なスケジュールと整備内容を説明。24年度中の着工整備が決まった。道路維持課は着手時期は明示しないものの「JR九州との工事の調整が付き次第、速やかに整備したい」とする。
 住民にとっては、ようやく要望が聞き入れられた形だが、ではなぜ事態が動くまでにこれほどの年月がかかるのか。同課によると、踏切敷地内はJR九州の所有となるため一般的な市道整備と違って勝手に工事ができず、協議に時間がかかる点が大きい。加えて遮断機の設置には1台数千万円かかり、周辺設備などを含めると多額の予算が必要になるという。実際、陣の内踏切の改良保全型事業費(道路改良)として市は本年度当初予算に約1億3400万円を計上した。
■ 勝手踏切
 陣の内踏切は拡幅のめどが立ったものの、市内全体に目を移せば、ほかにも注意が必要な踏切は多数存在する。主に松浦鉄道(MR)が管理する踏切で、遮断機と警報機がない踏切は3カ所、遮断機なしは2カ所ある。踏切がないのに、日常的に住民らが線路を横切って通行する「勝手踏切」に至っては17カ所もある。
 市とMRは危険な踏切については廃止したい考えだが予算的な問題や周辺住民から「残してほしい」との声もあり、事態が前に進む気配はない。
 危険な踏切を巡っては4月、群馬県高崎市で9歳の女児が遮断機、警報機がない踏切で列車にはねられ死亡した事故があったばかり。群馬県は事故を重く受け止め、29年度までに遮断機と警報機がない踏切をすべて廃止する方針を固めた。全国の自治体でも追随する動きがある。
 踏切事情に詳しい日本大学鉄道工学リサーチセンターの綱島均特任教授は「危険な踏切については行政と鉄道会社、住民が協議し、最適な策を見つけなければ事故は繰り返される。現状のままでは相当危険。放置は限界にきている」と警鐘を鳴らす。

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