「ちゃんとしていなくても、いいじゃない」…朝ドラ「ブギウギ」脚本家・足立紳さんが伝えたかったこと 鹿児島を訪れた本人に聞いてみた

脚本を手がけた映画「雑魚どもよ、大志を抱け!」で見てほしいのは「生命力あふれる子どもたちの姿」と話す足立紳さん=鹿児島市のガーデンズシネマ

 2023年度後期のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」の脚本を担当した足立紳(あだち・しん)さんがこのほど、鹿児島市のガーデンズシネマであった開館14周年記念イベントに招かれた。映画監督や小説家の顔も併せ持つ足立さん。この機会に、創作に込める思いを聞いた。

 当日ガーデンズシネマでは足立さんが原作・監督・脚本を手がけた2023年公開の映画「雑魚(ざこ)どもよ、大志を抱け!」が上映された。それぞれの 家庭の事情やコンプレックスなど抱えきれない問題山積みの小学生男子7人を主人公にした“青春映画”だ。

 -この映画で伝えたかったことは何でしょうか。

 「時代設定は1988年の昭和末期。テーマを挙げようと思えばいろいろ挙げられるけど、一番見てほしいのは子どもたちが意味なく、わちゃわちゃ動き回っているさまかな。とにかく生き生きと生命力あふれる姿を見てほしい」

 「ブギウギ」は歌手・笠置シヅ子さんがモデルの福来スズ子を 主人公にした物語だった。

 -スズ子の家族を描く時に「ちゃんとしていない」ことをテーマにしていたと以前、インタビューに答えておられますね。その真意を聞きたいです。

 「ちゃんとしていなくても一生懸命生きてることに変わりはない。何か今、ちゃんとしてなきゃいけないって世の中にどんどんなっていっているので、じゃあちゃんとしていない人たちは、どこに置き去りにされてしまうんだろうという思いがあって」

 「『ブギウギ』のスズ子が育った家庭も、そんなにちゃんとしてるわけではないでしょ。『間違ってる』と言われてることとか、『正しい』と言われてることとかを含め、ごちゃまぜで一生懸命その日を生きていってるさま、そういうことを描きたいなと思ってました。失敗、ダメといわれる部分を描いたうえでなおかつ肯定したい」

 -歌の世界で活躍された笠置さんに起こったこと、ほぼ史実に基づいているそうですね。

 「あらかた笠置さんの本、記事は全部目を通して調べました。出来事としては史実に基づいてます。けれど、お母さん(ツヤ)、お父さん(梅吉)、弟(六郎)のキャラクターは分からないので、そのへんは、だいぶオリジナル的なものが入っています」

 笠置さんの大ヒットとなる「東京ブギウギ」が発売されたのは 1947年だった。朝ドラ「ブギウギ」では流行歌手となったスズ子と、戦後の焼け野原の街 に登場した夜の女たちの交流が描かれた。

 -笠置さんと女たちとの交流も実際にあったそうですね。

 「ドラマの中では最初、スズ子は反発を受けた設定ですが、実際は最初からものすごく熱く支持された。相当人気があったんじゃないかな」

 「でも反発の部分を加えたのは、同時代を生きていたみんながみんな、どんな人でもあの歌に力づけられたわけじゃないよ、みたいにしておきたかったから」

 -笠置さんの魅力って何だと思いますか。

 「ドラマで育てのお母さんが、死ぬときに『実の親に(スズ子を)会わせないでくれ』『実のお母さんが、私が知らない娘をこれから見ていくのは絶対に嫌だ』と言うでしょう。笠置さんがそのことを自伝に書いていたんです。同時に、自分は、育ての母とそっくりで、独占欲が強くて-とユーモラスに表現している。人間の業というか、普通は隠しておきたい部分を書いてそこにユーモアをまぶしてる。いいですよね。作品自体もこういうものを書きたいなと思っていました」

 「ブギウギ」でスズ子のよきライバルとして登場したのが茨田りつ子。「ブルースの女王」と呼ばれた歌手、淡谷のり子さんだ。

 -茨田りつ子の存在感は大きかったですね。

 「りつ子のモデルになった淡谷さんは、笠置さんの歌い方とかをあまり認めてらっしゃらない発言が残っています。ご本人は音楽学校を出て基礎を相当みっちり勉強していた。いっぽう笠置さんは我流でやりたいようにやってる。でも淡谷さんは根底の部分で笠置さんの力を認めていたんじゃないか。好きだったんだろうな、と思います」

 -戦時中、りつ子が海軍基地を訪れ、特攻隊員たちを前に「別れのブルース」を歌うシーンがあります。反響が大きかったそうですね。

 「淡谷さんは戦時中、歌うときの衣装を注意されても絶対変えなかった。『これが私の戦闘服だから』と。その衣装で特攻隊員の前で歌った後、崩れ落ちるくらい精も根も尽き果てる。淡谷さんなりの戦い方をしているとの思いでつくったシーンです」

 -スズ子はドラマを通してよく『わては思うんや』と言っていました。この台詞が特に印象に残っています。

 「幼いころの設定で、お母さんがスズ子に『とにかく嫌なことは嫌って言わなきゃいけない』とか、そういうことがちゃんと意思表示できる人間になってほしい、と言ってたシーンがあると思うんですけど、そういうことがスズ子にはすりこまれてるというふうに自分の中ではつくっていましたね」

 
 足立さんが脚本を手がけた映画「百円の恋」は、ニートの女性がボクシングを始めて人生が変わっていくストーリー。安藤サクラさんが主演し2014年に公開された。10年を経て今年2月封切られた中国でのリメーク版も大ヒットを記録している。

 いたって気さくなご本人に話をうかがって感じたのは、駄目な部分も魅力として見せる清濁併せ飲んだ人物像を大事にしていること。今後生み出す作品がますます楽しみだ。

(別カット)脚本を手がけた映画「雑魚どもよ、大志を抱け!」で見てほしいのは「生命力あふれる子どもたちの姿」と話す足立紳さん=鹿児島市のガーデンズシネマ

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