世界的に希少な“両利き選手”がもたらす利点。Jリーグでは...【小宮良之の日本サッカー兵法書】

欧州や南米では、スカウトの段階で「Ambidextrous」は特級レベルの評価を受ける。Ambidextrousは「両利き」という意味になるだろうか。先天的に左右に偏らずに、利き手利き足が身体の中で混ざっていて、どちらも使いこなせるタイプだ。

世界的なサッカー選手としては、ウスマン・デンベレ(パリ・サンジェルマン)、ブライム・ディアス(レアル・マドリー)、ペドロ・ロドリゲス(ラツィオ)、イバン・ペリシッチ(トッテナム)、ピオトル・ジエリンスキ(ナポリ)、メイソン・グリーンウッド(ヘタフェ)などが知られる。

彼らはどちらの足でも同じようにパスが出せ、シュートが打てるだけに、常にアドバンテージが取れる。両利き特有の特徴として、くるりとターンしても空間認知が高く、バランスを失わずに視野が取れる点もあるだろう。両利きで、ターンからのプレーはお手の物だ。

サイドから切り込むデンベレの場合は顕著だが、右足でも左足でも切り込める。それ故に、ディフェンス側は的を絞れない。中途半端な守備の隙を突く形で、簡単にカットインできる。フェイントや切り返しだけで、敵を置き去りにできるのだ。

当然、スカウトは彼らを探して躍起になるわけだが、希少種で数は限られている。

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そしてJリーグでは、右利きか、左利きか、どちらかに分類されてしまうことが多いだろう。ただ、実際は両利きの場合もある。

例えばサガン鳥栖で長くストライカーとして活躍し、クラブ歴代最多得点を誇る豊田陽平(現ツエーゲン金沢)は、字を書く、箸を使う、ボールを投げる、バットを振るなど利き手が混在していたが、当然、利き足も実は両方だった。右利きで登録されていたが、左の方がパワー系のシュートを打てたし、ヘディングもどちらからのボールにも適応できた。

また、柏レイソル一筋のキャプテンでクラブ歴代最多出場試合記録を持つ大谷秀和(現在は柏のコーチ)も、いわゆる両利きだった。そのため、彼は広い視野を取れたし、ターンした後の景色が確保できていた。右利きで知られていたが、両足を使ってのゲームメイクができたし、相手にどちらから突破されても即座に対応することができた。

両利きの選手は、ピッチ上で違いを作ることができる。0コンマ秒、もしくはミリ単位で勝負が決まる中、タイミングを外せたり、オプションを持っていたりして、先手を取れる。

もっとも、日本人選手は世界でもトップレベルで「両足が使える」だけに、国内にいる時はそこまで際立った差にはならないのかもしれない。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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