退職…IT企業の女性、乳がんに罹患 「休職してしっかり休んで」と言われ治療専念、復職したら席なし…辞めることに がん患者の就労、大きく差を実感 大学院で学び直した女性、カフェを立ち上げ活躍

鈴木さんの講演に熱心に耳を傾ける「くまがや共同参画を進める会」のメンバー

 埼玉県熊谷市の「くまがや共同参画を進める会」(日向美津江会長)の本年度総会が同市内で開かれ、鈴木菜水子さんが、がん患者の就労問題について講演した。テーマは、「人間的成長と多様性がもたらす企業へのプラス効果」。同会に加盟する19団体と個人、関係者ら約50人が出席した。

 鈴木さんはIT企業に入社後、女性管理職は1人という職場環境の中で人財育成室長を務めていた時期、乳がんに罹患(りかん)。術後の面談で「休職してしっかり休むように」と言われたものの、復職後は実質的な席はなく退職を余儀なくされたという。以降、がん体験者の就労問題を考えるようになったと話した。

 人事に携わった経験から、治療中のがん患者が雇用側に求めるものと、雇用する側が提供するサポートに隔たりがあることを実感。治療中のがん患者にアンケートを取り、聞き取り調査をした。

 「非正規社員と正規社員の違いが大きい」「心と体の回復は個人差がある」「病気のステージと心と体の回復の相関はない」「世帯収入により罹患後の働き方が異なる」「求める支援や配慮は個人差があり共通化できない」など、本音を引き出した。

 著名人のがん体験ブログに寄せられた読者コメント1万7千件の中から就労に関わる約500件も分析。個人差は大きく、就労ルールを決め付けない、個々に応じた配慮や支援が必要だと話した。

 大学院で学び直し4月に起業。インドネシア産のコーヒーを販売するカフェを立ち上げた。社会貢献も目的の一つ。乳がん啓発活動をする熊谷市のNPOとイベントなどでコラボレーションを始めている。

 日向会長は、「(会社を)辞める意思はないのに辞めざるを得ないというがんと就労問題は、市内のさまざまな中小企業の経営者にも聞かせたい内容だった。病気や制約がある人を活用することは、周りの社員への良い波及効果にもつながるのでは」と話していた。

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