スーパーサブが決めた「交代後15秒の同点ヘッド」と「CL決勝の同点ゴール」(1)意外と知らない「サッカーの選手交代」起源と進化と現在地

オールドトラフォードでは、サッカー史に残る幾多の名勝負が行われた。©Y.Osumi

サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、0から最多7まで増えたもの。

■交代後「ファーストタッチ」で同点弾

過去見た中で最も鮮やかな選手交代は、2001年10月6日、マンチェスターで行われたワールドカップ欧州予選第9組最終日の「イングランド×ギリシャ」である。交代出場で入ったばかりのイングランドFWテディ・シェリンガムが、まさにファーストタッチで同点ゴールを決めたのだ。

イングランド代表にとって、これほど語るべきことが多いワールドカップ予選は、後にも先にもない。

欧州予選第9組の対戦相手には、フィンランド、ギリシャ、アルバニアとともに、なんと不俱戴天のライバルであるドイツが入ってしまったのだ。5チーム中、ストレートにワールドカップ出場権を得られるのは首位1チームのみ。2位になると、他の組の2位、あるいはアジアとのプレーオフを戦わなければならない。

そのイングランドの初戦が、2000年10月のドイツとのホームゲームだった。ただのワールドカップ予選ではない。この試合を最後に、1923年以来、数々の名勝負の舞台となってきたロンドンのウェンブリー・スタジアムが解体され、新しいスタジアムに生まれ変わることになっていたからだ。

このスタジアムでの最も記念すべき試合、1966年ワールドカップ決勝(イングランド4-2=延長西ドイツ)を思い起こそうとでもいうように、イングランドはいつもの白ではなく、赤いユニフォームを着た。相手のドイツは白である。

ところが試合は、イングランドの意表をついたFKでドイツが先制し、そのまま1-0で逃げ切ってしまったのである。だが、大事なワールドカップ予選の初戦で敗れたことなど、ファンの心にはなかった。偉大なスタジアムへの惜別の思いが、7万6377人をのみ込んだスタンドを支配した。同点にこそできなかったが、後半はよく試合を盛り返したため、大きな非難を受けたわけではなかったのに、イングランド代表監督ケビン・キーガンは、ウェンブリー最終戦という大事な試合で負けたことを恥じ、試合の数時間後に辞任した。

■イングランドの逆襲「後半22分の交代」

その後イングランドは、2001年初頭に監督に就任したスベンゴラン・エリクソン監督の下で調子を取り戻し、9月にはミュンヘンでドイツを5-1で下して、10月に最終戦を迎えたときには得失点差でドイツを抑え、グループ首位に立っていた。他の3チームには、予選突破の可能性は残されていなかった。10月6日の最終日、ギリシャをホーム(マンチェスターのオールドトラフォード)に迎えたイングランドに対し、ドイツはゲルゼンキルヘンにフィンランドを迎えていた。この1か月前には、フィンランドがギリシャに5-1で大勝している。イングランド優位の状況は明らかだった。

だが、試合が始まってみると、ギリシャの動きが良く、イングランドGKナイジェル・マーチンは大忙しとなった。そして前半36分、ついにイングランド・ゴールが破られる。後半、イングランドは猛攻に出る。しかしMFデービッド・ベッカムを中心とした攻めも、最後のところでギリシャGKアントニオス・ニコポリディスの好守に防がれる。

シェリンガムがピッチに立ったのは、シンプルなワンツーパスでイングランドDFラインが突破され、ペナルティーエリア左で完全にフリーとなったギリシャのシュートが幸運にもGKマーチンの正面に飛び、防いだ直後のことだった。後半22分のことである。ピッチ上では、攻撃に転じたイングランドが、ベッカムに対するファウルにより、左サイドでFKを得てプレーが止まったタイミングで、ロビー・ファウラーに代わってシェリンガムが入った。

■投入後わずか15秒「歩数50歩」未満でゴール

シェリンガムはタッチラインとハーフラインの交点からピッチに入り、ゆっくりとギリシャのペナルティーエリア前に走っていく。そしてペナルティーアーク(ペナルティエリアの外にある半円)に達したとき、いきなり角度を変えて左に、すなわちニアポスト前にダッシュした。そこにベッカムの正確無比なキックがくる。右ひざを上げ、左足1本で踏み切って高くジャンプするシェリンガム。その後頭部に当たったボールは、孤を描いてギリシャゴールに吸い込まれたのである。

交代で入ってわずか15秒、ピッチに足を踏み入れてから同点ゴールを決めるまで、その歩数は50歩にも満たなかったという。

シェリンガムはまさに「スーパーサブ」だった。その2年前、バルセロナで行われたUEFAチャンピオンズリーグの決勝戦でも、彼はマンチェスター・ユナイテッドで歴史的な同点、逆転劇の主役を演じている。ドイツのバイエルン・ミュンヘンに0-1とリードされ、苦しんだ試合。この試合でも、シェリンガムは後半22分に交代で投入され、後半アディショナルタイムに入ってすぐ、ライアン・ギグスのシュートにゴール前で合わせて叩き込み、同点。2分後には、ベッカムの左CKをニアポストで合わせると、そのボールをファーポスト前にいたオーレグンナー・スールシャールが反応してゴールに流し込み、あまりにも劇的な逆転勝利となったのだ。

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