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6月1日土曜日のJ1リーグ第17節、横浜F・マリノスVS鹿島アントラーズ戦で、またも悲劇が繰り返された。レフェリーの判定にまつわる問題である。プレーする者にも、見る者にもストレスを与えるレフェリング問題の根源は、どこにあるのか。サッカージャーナリスト後藤健生が探る。
■監督が疑問を呈した「2つの場面」
いつも温厚な横浜F・マリノスのハリー・キューウェル監督が語気を強めた。横浜FMは6月1日土曜日のJ1リーグ第17節の戦いで、鹿島アントラーズに2対3で敗れた、その試合後の記者会見である。
「試合についてはあまりしゃべりたくない。Jリーグのルールが分からない……」
キューウェル監督が審判の判定について疑問を呈したのは、2つの場面だった。
1つは、ハンドの判定だった。
試合は、前半10分に井上健太が放ったシュートを鹿島のGK早川友基が弾いたところを、アンデルソン・ロペスが決めて早々に横浜FMがリードした。その後、鹿島の関川郁万のヘディングが決まって同点かと思われた場面もあったが、VARが介入してオフサイドで取り消され、0対1のスコアのまま後半に入っていた。
56分、鹿島のスローインからのボールをMFの知念慶が手に当てて処理したのだが、レフェリーはプレーを流した。それが、ちょうど横浜FMのベンチ前での出来事だったので、テクニカルエリアにいたキューウェル監督は大きなジェスチュアでハンドをアピール。ピッチ上ではアンデルソン・ロペスもハンドをアピールしていた。
試合会場だった東京・国立競技場の記者席はスタンド3層目だから、かなり高い位置にある。しかし、その記者席から遠目で見ていてもハンドは明らかだった。
だが、レフェリーの木村博之氏は笛を吹かなかった(見えていなかったのだろう)。
そして、悪いことに、この“ハンドの場面”からボールがつながって、右サイドに開いていた名古新太郎に渡り、名古のクロスが流れたところを鈴木優磨が決めて、鹿島が同点に追いついてしまったのである。
■「あんなのありか?」と思わせるプレー
そして、もう1つキューウェル監督が異議を唱えたのが、後半アディショナルタイムのスローインの場面だった。
57分の同点ゴールの後、右サイドバック濃野公人のゴールで鹿島が逆転。さらに、FKからのボールを関川郁万が頭で決めて鹿島が3対1でアディショナルタイムに入っていた。
そして、横浜FMは94分に1点を返すことに成功した。交代で投入された宮市亮のクロスを同じく交代で入った植中朝日が頭でねじ込んだゴールだった。
横浜FMはすぐにボールをセンターサークルに戻して、同点ゴールを目指した。すると、97分に横浜FMにスローインのチャンスが生まれ、加藤聖がロングスローを狙った。そのスローインの瞬間、鹿島の須貝英太が加藤の目の前でジャンプしてスローインを妨害したのだ。
その場面も、スタンド記者席から見ていて、「あんなのありか?」と思ったが、木村主審はそのままプレーを流したのだ。
タッチライン際ではキューウェル監督が第4審判や副審に抗議を続け、試合終了後にはセンターサークル付近にいた木村主審に詰め寄って、キューウェル監督に対してイエローカードが突きつけられた。
そして、記者会見の席でも、キューウェル監督は判定に対して不満を露わにしたのだ。
■勝者も「レフェリーに惑わされるな」と注意
まあ、負けた監督が判定に異議を唱えるのは不思議ではない。
だが、勝利者だった鹿島のランコ・ポポヴィッチ監督も記者会見の席でレフェリーの判定について言及した。
ポポヴィッチ監督は、どの試合でも判定に対して激しく反応するので有名だ。タッチライン際を走る副審や第4審判に対して、絶えず大声で異議を唱えている。
「でも、今日は勝利したのだから、何も言わないだろう」と思っていたのだが、やはり判定について言及した。「私はいつも感情的と見られているが、リスペクトは欠かさない」と、イエローカードを受けたキューウェル監督に対してチクリと皮肉を浴びせた後、「不利なジャッジがあっても、それに影響されてはいけない。ハーフタイムには選手たちに『レフェリーに惑わされるな』と注意した」というのだ。
キューウェル監督が異議を唱えたハンドの場面も、スローイン妨害の場面も、直接、得点に結びついた(あるいは、得点が取り消された)場面ではなかった。それなのに、なぜキューウェル監督はあそこまで激しく反応したのか。そして、勝利したポポヴィッチ監督までもが、なぜわざわざレフェリングに関して言及したのか……。
それは、問題になった場面だけでなく、90分を通して判定基準が揺れていたことで、選手も監督も、そして観客もストレスを感じ続けていたからだったに違いない。