素顔(6月6日)

 「ある時は…、またある時は…」。七つの顔を持つという私立探偵・多羅尾伴内の決めぜりふだ。2丁拳銃を手に、難事件の解決に挑む。戦後まもなく片岡千恵蔵さんが演じ、大ヒットした▼現代の伴内は、スマホに幾つも顔を持つようだ。認証情報「アカウント」を取得し、交流サイト(SNS)で見知らぬ相手とも交信する。一つだけではない。学校、職場、家族、友人用の「本アカ」に加え、周囲に知らせない「サブアカ」を持つ若者が多い。部活動や趣味など分野ごとに、仲の良さに応じて設けることも。学校での悩みや愚痴を匿名で投稿する「裏アカ」まであるという。今どきの七変化か▼企業側は、調査会社を通じて調べ上げる。就職を希望する学生の過去の投稿に、差別的発言や迷惑動画はないかどうか。就活生は不都合な情報を非公開にしたり、アカウントを丸ごと削除したり…。化かし合いではあるまいが、当世就活の舞台裏では、そんな攻防もあるとか▼来春卒業予定の大学生らの面接や筆記試験が解禁された。人手不足で今年も売り手市場が続いている。県内の学生諸君は、生まれ持った優しい素顔を忘れず社会へ。大団円で真の姿を現す名探偵に習って。<2024.6・6>

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