1992年に結成し、国内屈指の演奏と斬新な選曲で人々を楽しませてきた弦楽四重奏楽団モルゴーア・クァルテット。メンバーのビオラ奏者小野富士さんの故郷福島市で19日、28回目の県内公演「演奏活動30周年Vol.4」が開かれる。演目はファン投票で選ばれた3曲。小野さんにそれぞれの聴きどころや活動30年の思いを聞いた。
―今回の演目はいつもと違う雰囲気ですね。
「昨年、今まで定期演奏会で取り上げてきた曲のうち、ショスタコービチとロック以外の曲でもう一度聴きたい曲を『再演総選挙』としてアンケートしました。その上位6曲中3曲を演奏します」
―1曲目は20世紀のドイツの作曲家ヒンデミットの「序曲『さまよえるオランダ人』下手くそな温泉楽隊が朝7時に噴水の周りに集まって初見で演奏したような...」です。
「得票数が一番多かった曲で、ジョーク曲とされていますが、これはプロバガンダという意味も含んでいます。ヒンデミットは、ヒトラーに対するアンチテーゼとして、彼が愛好していた作曲家ワーグナーの有名なオペラ『さまよえるオランダ人』の序曲を使ってこの曲を作り、風刺したのです。ヒンデミットはこれで立場が悪くなり、米国へ亡命しました。こういう深刻なところと、ふざけたところがある曲です」
―2曲目はヤナーチェクの「弦楽四重奏曲第2番『内緒の手紙』」。
「内緒の手紙という美しい書き方をしてますけど、ラブレターで、とても私小説的な曲です。ヤナーチェクはモラビア(現在のチェコ東部)出身で、独特の色彩感を持っています。この曲も東欧的な、サイケデリックな色彩があり、本当に独特な音で、なんというか、『ドラキュラが昼間現れちゃった』みたいな感じですね。『違う!』と言われるかもしれませんが(笑)」
―3曲目がボロディンの「弦楽四重奏曲第1番イ長調」です。
「彼は本業は化学者なのですが、日曜作曲家というのがもったいないほど、メロディーが湯水のごとく出てくる人でした。浮かんでくるメロディーを整理し切れないくらいたくさん書いたのがこの1番で、演奏するのに45分ほどかかります。でも、直前に大食をしない限り、眠くはならないと思いますよ(笑)。そのぐらい、いろいろな聴きどころがあります」
―演奏会をどう楽しんでほしいですか。
「モルゴーアを30年聴いている方にとっては、まとも過ぎてつまらないと感じるかもしれません。今回は非常に穏やかな、とんがっていないプログラムなので、それを味わっていただきたいです」
―モルゴーアが30年続いてきた理由とは。
「ショスタコービチの弦楽四重奏15曲を演奏する目的で始まったのですが、私たちはほとんど曲を知りませんでした。有名な作曲家の曲だと奏者ごとに思い入れがあり、それぞれのエゴが出ますが、知らない曲だと自分たち4人だけでどうにかするしかありません。それが、『正直で分かりやすい』、モルゴーア的なアプローチにつながってきたと思います。15曲の完奏後は、新しい音楽が大好きな荒井英治(第1バイオリン)が持ってくる曲を演奏し『なるほど、こういう曲があるんだ』といつも思わされてきました。この、いつも知らない曲をやってきたというのが、30年続いてきたことの根底にあると思います」
―今後の活動は。
「来年1月に東京で演奏会を開く予定で、演目はシューベルトの『死と乙女』などです。今後はよく知られた曲もたくさん演奏するのではないでしょうか。われわれが弾くと、モルゴーアらしさが出るかもしれないですね」
〈モルゴーア・クァルテット演奏活動30周年Vol.4〉
19日午後6時30分開演。福島市のふくしん夢の音楽堂大ホール。チケットは一般3500円、学生1500円。全席自由、未就学児入場不可。問い合わせは同音楽堂(電話024.531.6221)へ。
モルゴーア・クァルテット 元東京フィル・ソロコンサートマスターの荒井英治(第1バイオリン)、東京シティ・フィルコンサートマスターの戸澤哲夫(第2バイオリン)、元NHK交響楽団次席ビオラ奏者の小野富士(ビオラ、福島市出身)、N響首席チェロ奏者の藤森亮一(チェロ)による弦楽四重奏団。ショスタコービチの15曲の弦楽四重奏曲を演奏するため1992年秋に結成し、2001年完奏。その後も精力的に演奏活動を展開している。18年、第28回みんゆう県民大賞芸術文化賞。荒井英治編曲のプログレッシブロックの評価も高い。モルゴーアはエスペラント語で「明日の」の意味。