【6月7日付編集日記】箱庭

 情景作家と称し、街などをミニチュアにした作品を手がける荒木智さんは、精密でリアルな表現によって人の記憶に語りかける。東日本大震災前の新地町を再現した作品では、被災者から震災前の暮らしや大切な思い出などを聞き、温かい世界をつくり出した

 ▼荒木さんの持ち味は、パンクしたタイヤや廃車のさびなどの細やかな描写によって生まれる郷愁。ブリキ缶のふたの上にコケや小枝を置いて景色を作る箱庭遊びが創作の原点という

 ▼会津大の大竹真紀子教授が提唱する「月火星箱庭構想」は、月などの地表を模した大きな箱庭を作って、そこで探査ロボットを動かす試み。動作データにコンピューターで重力の違いなどを加味して、性能を評価する

 ▼箱庭が整備されるのは、南相馬市の福島ロボットテストフィールド。宇宙などで活動できるロボット開発に向け、新技術を生み出すことが狙いだ。材料加工などの分野で、本県の関連産業への波及効果も期待されている

 ▼荒木さんの作品が見せてくれるのが思い出の情景だとすれば、南相馬の箱庭で育まれるのは無限に広がる未来だろう。ロボットが宇宙から浜通りのあたりを懐かしく眺める。いつかそんな日が来るかもしれない。

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