マグロ漁船に同乗も コーディネーターが明かす海外メディアが報じる日本の姿とは

海外メディアの日本での取材活動をサポートしている瀬川牧子さん【写真:日下千帆】

日本政府観光局(JNTO)によると、2024年4月の訪日外国人旅行者数は304万2900人。2か月連続で300万人超えとなりました。円安の追い風もあり、行ってみたい国の上位にランクインする日本ですが、その魅力を報道している海外メディアは、日本の何に興味を持っているのでしょうか? 海外メディアの日本での取材活動をサポートしている、日本フィクサー&ジャーナリストネットワーク代表の瀬川牧子さんにお話を伺いました。

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文化や食など多岐にわたる分野 海外メディアが報じる日本の魅力

瀬川さんは2008年に産経新聞社を退社し、日本フィクサー&ジャーナリストネットワークを設立。また、2012年からは「国境なき記者団」の日本支部長も務めています。

――海外のメディアは日本のどのようなところに興味を持っているのでしょうか?

「2011年3月の東日本大震災や、今年1月の能登半島地震などの災害時には、もちろん多数の海外メディアが取材に来ました。ただ、彼らが興味を持っているのはそういった時事的なニュースだけではなく、日本の文化や日本人の価値観、生き方、自然との関わり方や食べ物まで、ありとあらゆることです。

古くから自然と共生している日本の文化に、外国人記者らは非常に感激しています。『日本人になりたい!』とまで言うオーストラリア人記者もいるくらいです。これまでに取材したテーマは、沖縄に住む人々の長寿の秘訣や女相撲の取材など、多岐にわたります」

――日本の食については、どのようなものに興味があるのですか?

「たとえば、日本のフルーツがおいしいというのは海外でもよく知られています。

先日はシンガポールのメディアが、『ルビーロマン』という石川県オリジナルのブドウ品種の競りの様子を取材するため金沢を訪問。見た目の美しさも重要視されることから、作ったブドウの半分を捨ててしまう状況にショックを受けていました。

クラウンメロンの取材では、メロンを撫でてあげると甘くなると言って、農家の人が『よしよし』とメロンを撫でていたのに驚いていました(笑)」

寿司の代表的なネタ、マグロにも注目 初競りに興味

――フルーツ以外ではどうでしょうか?

「フルーツ以外では、世界でも人気を集める寿司の代表的なネタ、マグロにも興味を持ったようです。2019年、築地の初競りでマグロが3億円で競り落とされた際は、クルーと一緒に大間のマグロ漁船に乗りましたよ」

――マグロ漁船の乗り心地はいかがでしたか?

「6時間ほど乗船したのですが、5メートルの波を初めて経験。あまりの揺れで気持ち悪くて、動けませんでした。海水はマイナス10度。『ここから落ちたら死ぬよ』と言われました。過去には何人も落ちていると聞き、命がけで漁に出る漁師のみなさんを尊敬しました」

――初競りに賭けるマグロ漁はどんな様子でしたか?

「最新のレーザー装備に1億円以上かけた大型船から、家族で漁に出る小さな船まで20隻ほどがいっせいに海に出て、漁に励んでいました。マグロ漁は大型船だから有利ということでもないようです。

この日は年配のご夫婦の操業する漁船が、のちに3億3000万円で競り落とされる300キロの大きなマグロを釣り上げたのです。奥様が『お父ちゃ~ん! 3億、入ったよー!』とうれしそうに叫んだ声が今でも忘れられません」

世界的にも話題になったロボット犬、AIBOのお葬式

――食べ物以外に印象的だった取材はありましたか?

「こちらも同じくシンガポールのメディアの取材でしたが、2018年、『AIと人間が共存する社会における倫理観とは?』というテーマの番組で、千葉県いすみ市にある光福寺へ取材に行きました。

このお寺では、ソニーのロボット犬『AIBO』のお葬式が行われています。AIBOは、1999年から2006年までの間に約15万台が販売。この日も解体されるAIBOと飼い主を慰めるためのお葬式が行われていました。ロボットに死はあるのか? と大きな話題になり、私はこの番組の企画やコーディネートに携わったおかげで、2018年のワールドテレビアワードをいただきました」

地道にコーディネートの仕事を続けたおかげで、今ではさまざまな国のメディアに企画提案ができるという瀬川さん。今後も日本の魅力を世界に発信し続けてくれることでしょう。

日下 千帆(くさか・ちほ)
1968年、東京都生まれ。成蹊大学法学部政治学科を卒業後、テレビ朝日入社。編成局アナウンス部に配属され、報道、情報、スポーツ、バラエティとすべてのジャンルの番組を担当。1997年の退社後は、フリーアナウンサーとして、番組のキャスター、イベント司会、ナレーターのほか、企業研修講師として活躍中。

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