【6月9日付社説】学び舎ゆめの森1年/教育の魅力で地域に活力を

 大熊町の教育施設「学び舎(や)ゆめの森」が、町内で教育活動を始めて1年が経過した。認定こども園と義務教育学校(1~9年生)が一体となった施設で、0~15歳までの切れ目のない学びを目指している。

 ゆめの森が重視しているのは、子どもが主体的に学びを進める仕組みだ。文部科学省の学習指導要領では、単元ごとに学習のゴールや授業時間が決まっている。ゆめの森の子どもは授業時間の枠内で学習進度を自分で決め、テストなどで学習指導要領で求められる知識の定着を確認した上で、発展的な課題などにも取り組む。5~9年生は毎週金曜日、何を学ぶか時間割も自分で決めている。

 同校によれば、子どもたちは戸惑うことなく学習内容を組み立てているという。東京電力福島第1原発事故で一度は子どもの数がゼロになった大熊町で新たに始まった、児童生徒のやる気を引き出す学びを着実に根付かせていってもらいたい。

 本年度初めの在籍する子どもの数は56人で、大熊で教育活動を始めたばかりの昨年度当初の24人に比べると2倍以上になっている。企業の進出などを背景として今後も子どもの数は増加していくことが見込まれており、学校の定員は0から15歳まで各学年10人、計150人としている。

 ゆめの森では、同じ授業時間でもそれぞれの学びの進度が異なるため、よりよい成果に導くためには一人一人への適切な指導が必要になる。教職員は、人数が増えた場合でも十分に対応できるよう、それぞれの子どもがどこにつまずいているか、どのように声かけをすれば学力が伸びるかなどを判断する力を一層高めてほしい。

 ふくしま12市町村移住支援センターが、移住を検討する子育て世帯に双葉郡の教育施設を巡ってもらうモニターツアーを企画したところ、特徴ある教育を進めるゆめの森について「子どもを通わせたい」などの好意的な回答が寄せられている。昨年8月から今年3月までに自治体などから視察で1890人が施設を訪れており、ゆめの森は大熊町の情報を全国に伝える役割も担っている。

 居住人口が減少した大熊町の再生には、若い世代の住民の帰還や移住者らの呼び込みを進めていくことが欠かせない。ツアー参加者の反応は、良質な教育が人を引き付ける好材料になることを裏付けている。学校と町が連携し、ゆめの森を充実した学びを求める人たちの「教育移住」の受け皿としていくことが重要だ。

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