「やったことのないポジションなので新鮮」左ウイングバックに意欲の前田大然。攻守のバランスで最適解を見出し、決定力が加われば鬼に金棒だ

日本代表は現地6月6日、2026年北中米ワールドカップのアジア2次予選でミャンマーと敵地で対戦し、5-0で圧勝。7日に帰国し、8日には広島に移動して夕方から練習を行なった。

あいにくの雨にもかかわらず、約2000人のファンが駆けつけたトレーニングには26人全員が参加。ミャンマー戦に45分以上出た選手たちはクールダウンに努め、出場時間の少なかった板倉滉(ボルシアMG)や出番なしに終わった遠藤航(リバプール)らは実戦形式を中心に調整。長友佑都(FC東京)と久保建英(レアル・ソシエダ)は部分合流にとどまっており、11日のシリア戦に出られるかどうかは微妙な情勢と言えそうだ。

こうしたなか、ミャンマー戦の62分から相馬勇紀(カーザ・ピア)とともに登場した前田大然(セルティック)はフルメニューを消化。強烈なシュートも決めていた。

ミャンマー戦では3-4-2-1の左ウイングバックでプレー。70分には鈴木唯人(ブレンビー)のスルーパスに反応し、GKと1対1になる決定機が訪れたが決め切ることができず、悔しさを味わった。

「ボールが来るってあんまり思ってなかった。急に来たんで...」と前田は振り返るが、「ああいうところを決めないとダメかなという感じです」と深く反省。これを教訓に、シリア戦ではよりフィニッシュの精度を高めていくつもりだ。

左ウイングバックで先発した中村敬斗(スタッド・ドゥ・ランス)が代表9戦8発という驚異的な数字を叩き出していることも、前田の闘争心に火をつけている。縦への推進力やスピードという部分ではもともと前田に分があるが、中村もドリブル突破や仕掛けを課題と位置づけ、凄まじい気迫で勝負に行っていた。その泥臭くアグレッシブな姿勢を目の当たりにし、前田は「もっとやらなければいけない」と痛感したに違いない。

「敬斗はすごい点を取っている。そういうところでは僕は全然負けてると思うので、もっと頑張っていきたい」と本人も強調。目下、代表通算3ゴールという数字を上積みすべく、これまで以上にゴールを狙っていく構えだ。

森保一監督はシリア戦も攻撃的3バックを継続する可能性が大。となれば、前田は左ウイングバックで先発すると見られる。同様にスタメンが予想される1トップの上田綺世(フェイエノールト)、シャドーの南野拓実(モナコ)、3バック左の町田浩樹(ユニオンSG)など、周囲を取り巻く面々もガラリと変わるはずだが、彼らと良い関係性を築きつつ、自分のストロングを前面に押し出すこと。それが前田に託された重要なタスクだ。

「(試合に出る)メンバーはもちろん分からないですけど、自分が出た時には(敬斗とは)違ったところを見せないといけない。相手は勝たないといけない状況で来るので、難しい試合になると思う。しっかり気合を入れていきたいですね。

ウイングバックは走る距離も長くなるし、他の選手より(スピードや走力といった)自分の武器を出せると思うけど、90分間そればっかりやっているとしんどくなる。頭を使いながら上がるタイミングを考えたりすることが大事。ある意味、やったことのないポジションなので新鮮だし、楽しみな部分もある。強い相手にできることをやっていきたいですね」と、前田は新たなチャレンジに目を輝かせた。

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爆発的な速さを誇る韋駄天が、ドリブル突破で左サイドを次々と打開し、さらにゴールも奪えるようになれば、中村との競争で一歩優位な状況に立てる。加えて言えば、三笘薫(ブライトン)を抜き去ってファーストチョイスになることも夢ではないだろう。

実際、昨冬のアジアカップのイラン戦などを見ても分かる通り、守備強度やハードワークの部分では、前田は上記2人をはるかに上回る存在感を示せる。その高い守備意識や献身性と、攻撃面の推進力の折り合いをどうつけるかというのは、やはり難しい問題。その最適解をシリア戦で見出したいところだ。そこにゴールという結果、決定力が加われば、まさに鬼に金棒ではないか。

セルティックでも左からの仕掛けに磨きをかけながら、過去2シーズンを過ごしてきた。

「今季は監督が(アンジェ・ポステコグルーからブレンダン・ロジャーズに)代わり、サッカーのスタイルも変化したので、最初は難しかったですけど、そういうなかでも自分の役割はあまり変わらなかったし、しっかりとプレーできた。その成果を今季最後の試合(となるシリア戦)で出して、良い形で終わりたいですね」

こう力を込めた前田。シリア戦で得点と勝利を自らの力で引き寄せることができれば、よりレベルの上がる最終予選に弾みをつけられる。彼自身、最終予選とクラブの試合をフルで両立させるのは今回が初。だからこそ、ここで「ウイングバックとしての確信」を手にしておくことが重要なのだ。

シリア戦では、銀髪に変貌を遂げたスピードスターの一挙手一投足に注目すべき。見る者を驚かせる仕事ぶりを改めて期待したいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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