なぜ日本の治安は良いのか 「駐夫」が驚いたNYの日常 日本警察では考えられないアメリカの防犯指導に驚き

ニューヨークのタイムズスクエアをパトロールする警察官【写真:Getty Images】

世界的に見ても、安全な国である日本。国際的なシンクタンク、経済平和研究所が毎年発表している「世界平和度指数ランキング」で、2023年に日本は9位にランクインしました。一方、アメリカは131位になっています。妻の海外赴任に伴い、ニューヨークで駐在夫、いわゆる「駐夫(ちゅうおっと)」になった編集者のユキさん。この連載では「駐夫」としての現地での生活や、海外から見た日本の姿を紹介します。第8回は、ニューヨークの治安についてです。

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頻繁に目撃される逮捕現場

近所のスーパーマーケットへ買い物に行くと、人だかりができていました。なんだろうと覗いてみると、後ろ手に手錠をかけられた女性を数人の警察官が取り囲んでいる最中でした。

周りには人が大勢いたので、詳しくはわからなかったのですが、おそらく万引きか何かだったのではないかと思います。しばらく警察官と話をしたあと、彼女はパトカーに乗せられていきました。

ニューヨークに住み始めてから1年半近く過ぎましたが、これまで近所で逮捕現場を3回目撃しています。あるときは自宅のアパートの目の前で、アジア系の小柄なご老人が連行されていきました。

今住んでいるところは、セントラルパークの西側にあるアッパーウエストサイドというところで、ニューヨーク市内では治安が良いところとされています。高級ブティックが立ち並ぶ五番街や、セレブな高校生たちの青春群像劇であるドラマ「ゴシップガール」の舞台となったアッパーイーストサイドの反対側に位置します。

ただ、治安が良いところといっても、こちらには通りを1つ越えだけでたちまち雰囲気が変わるところがあります。実際に、高所得者が多く住むアッパーイーストサイドと、一般に治安があまり良くないといわれるハーレムは、通りを挟んで向かい合っています。昼間はともかく、夜間出歩くときはそういったところに気をつけたほうが良いでしょう。

「Spectrum News NY1(通称、ニューヨーク・ワン)」という、ニューヨーク州の情報に特化したニュース専門番組を観ていると、「STAB(刺す)」という見出しをよく見ます。誰それがどこで刺されてという事件が多いのですが、日頃よく出かける場所であることもあるので、注意したほうが良いのでしょう。あとは、火事のニュースが多いイメージがあります。

実際にこれまで怖い目に遭ったことはないのですが、地下鉄車内で何かよくわからないことを叫んでいる人などを見かけときは、車両を移るようにしています。

「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」の本【写真:ユキ】

犯人と戦うという選択肢も!?

危機管理について、外務省から在留邦人に向けて注意喚起のメールが届きます。また、公式ウェブサイトには、安全対策の啓発を目的とした「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」を掲載。本の形になったものも発行されています。内容は、日本の外務大臣が、在留邦人の安全対策のために主人公のデューク東郷へ協力を要請したというもの。情報収集の重要性やオフィスでの安全対策などが、コミック仕立てでわかりやすく解説されています。

また、米国国土安全省が「Run, Hide , Fight(逃げる、隠れる、戦う)」と題して、無差別銃乱射事件の対策ビデオを作っています。

逃げる:真っ先にすることは、逃げること。ほかの人が反対しても逃げること。持ち物はその場において、可能ならほかの人が逃げるのを手伝うこと。
隠れる:逃げることができなかったら、隠れる場所を探すこと。ドアにカギをかけ、電気を消して静かに。銃を撃たれても避けられる遮蔽物があるところに隠れる。
戦う:最後の手段は犯人と戦うこと。1人であれ、仲間とであれ、気迫を持って行動すること。武器になるものを探し、犯人の武器を奪い、何が起ころうと犯人を打ち倒すこと。

この3つの行動ができるかどうかで、命が助かるかもしれないとのことです。

「戦うときは、気迫を持って戦え」

日本の警察は、そんなふうに指導しないでしょう。近年、アメリカでは治安悪化に伴い、アジア系住人の銃保有の申請率が増加しているそうです。さすがに銃を所持して身を守ろうとまでは考えないのですが、身の引き締まる思いがします。

女性でも夜間に1人で出歩ける治安の良さは、日本人が誇るべきものであると思います。それと同時に、なぜ日本の治安が良いのかを改めて考えてみたほうが良いでしょう。その理由について、こちらに住んでいると思い当たることが多々あります。いつまでも安全に過ごせる日本であってほしいと思っています。

ユキ(ゆき)
都内の出版社で編集者として働いていたが、2022年に妻の海外赴任に帯同し、渡米。駐在員の夫、「駐夫」となる。現在はニューヨークに在住し、編集者、学生、主夫と三足のわらじを履いた生活を送っている。お酒をこよなく愛しており、バーめぐりが趣味。目下の悩みは、良いサウナが見つからないこと。マンハッタン中を探してみたものの、日本の水準を満たすところがなく、一時帰国の際にサウナへ行くのを楽しみにしている。

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