DeNAのブルペンで台頭する7年目の苦労人。150キロ台後半の速球と切れ味鋭いフォークで初勝利&初ホールド!5月昇格後は失点わずか1

☆首脳陣も認める中川虎大の成長

シーズンイン前、守護神や勝利の方程式として期待されていた山﨑康晃と伊勢大夢は本調子には程遠く、昨年大車輪の活躍を見せたJB・ウェンデルケンと、ロングリリーフもできる貴重な右腕の上茶谷大河は故障で離脱。計算のできるメンバーが揃ってファーム行きと、予想だにしていなかった緊急事態の渦中にあるベイスターズのブルペンにおいて、若き右腕が頭角を現わしてきた。

その名は中川虎大。育成として入団し這い上がってきた苦労人は、5月に初ホールド、6月1日には初勝利をマーク。「7年目っていうのもあって、負け以外何も付いてなかったことは自分の中ですごいしんどかったです」とのコンプレックスからやっと解放され、「先輩方からも、1勝したら全然違うよって言葉を色々いただいたんですけど、やっぱり違うんだなって実感できました」と屈託のない笑顔を見せた。

この結果に繋がったのは、決してラッキーではなく、確かな実力も身についてきていることは明らか。再昇格した5月後半からは150キロ後半のストレートと、バツグンの切れ味を誇るフォークボールはブラッシュアップされ、8試合、8イニングで失点はわずか1と安定している。

三浦監督も「今までだったらカウントを整えるのに苦労してる場面があったのが、今は打者と勝負できている。今まで経験してきた中で、もう同じ失敗はしないんだという強い思いを感じます。野球に対する取り組み方も意識も、だいぶ変わってきました」と頷く。

大原慎司チーフ投手コーチも「前はただ腕振って速いボールを投げる、すごい変化球を投げるみたいなピッチングだった」と振り返った上で「力を抜くわけではなく、ちょっと一段階力感が抜けたようなフォームから、ある程度行き先もまとまってきています。試合の中でしか掴めないピッチャーならではの感覚がわかってきてますね。なのでいい日、悪い日といったバラつきもなくなってきてる。これは彼の頑張りってとこですね」と成長に目を細めた。☆ベテラン捕手の存在と経験

さらに「自分の球の質などを、僕が思ってる以上にキャッチャーの方がわかってくれていて、ダメ出しをしてくれるんですよ。それがすごくありがたくて。 それを良くすると、また次のダメ出しが来る。ってことは、自分がレベルアップできてるってことなんで、そういう一言をもらって、次はそれを頑張ろう、それがクリアできたら、次言われたことを頑張ろうって、1個1個頑張ってクリアしていく。それが自信にも繋がってきてるとは思います」と親身になってアドバイスをくれる捕手陣に感謝する。
中でも自らがファームで調整することが多かった2018年に、当時ルーキーだった中川との接点があった戸柱恭孝は「よく話はしますね。例えば去年の交流戦ではいいボールだから打たれても野手の正面付くんだよ、などと言ってました。一つひとつはものすごくいいボールで、フォークなんかサイン出すのが怖いくらい。思い切ってゾーンに投げ込めばいいんですよ」とわかりやすく数多くのことを進言。「その言葉が、僕には一番入ってきやすいんです。考え方がシンプルになってきて、楽になりましたね」と本人の心の奥底に刺さり、結果へと昇華させている。

マインドも「やっぱり上がってきてすぐの時は結果が欲しいばっかりだったので、点を取られたら嫌だ、打たれたら嫌だっていうことばかりを考えて投げていたのですが、 登板を重ねてくることによって、やっぱり自信もついてきました。考え方の部分で、マウンドでも頭の中が冷静になれば周りも見えてますし。視野が広くなってきました」とポジティブに変化。「ビハインドであろうが、勝ってる場面だろうが、仕事はもう変わらないんで。0で抑えて帰ってくるだけなので。ファームだと内容重視になってくるんですけど、一軍ではいかにランナー出しても0で返ってくるかっていうことだと僕は思ってるので、どれがその確率が高いのかを自分で考えて、キャッチャーの配球の意図を理解して投球してます」とフォーカスするポイントも明確になっている部分も、確かな成長の証だ。

☆何でも屋から狙う9回の座

厳しい台所事情の中、あらゆる局面で出番が訪れる。連投、回跨ぎも辞さず腕を振り、打球が直撃してベンチに戻った際には「なんで裏にいてんのやろ」とプチパニック状態になりながらも「早くマウンドに戻らなきゃっていう気持ちがすごく強くて、もうそのまま戻りました」と闘争心と責任感を持ち合わる存在は、ブルペンにとっては貴重な財産となっている。
この状況を「僕にとってはすごいチャンス。ここで信頼を得ていくところなんで」と目を光らせる。「今はまだビハインドだとかが多いんですけど、最近は結構リリーフ陣がやられていて、その中でやっぱりなんとしても抑えて帰ってくることを繰り返していけば、勝ってる時に使いたいって思ってくれる。自ずと序列も絶対上がっていくと思うので」と野望を口にする。その先には「リリーフやってる限りは、やっぱりモリさん(森原康平)のクローザーっていう場所は僕も絶対狙ってる場所なんで。モリさんが調子落としたりしたら、いつでも行きますよっていう気持ちでいますよ」と9回のマウンドを虎視眈々と狙っていると明言した。

待望の初勝利には「正直たった1勝なんで。ここで調子に乗らないようにとすごい意識してます」とそっけないが「セーブがついたら、すごく嬉しいでしょうね」と、ウィニングボールを手にする日を心待ちにする剛球右腕。本格化待ったなしの7年目の虎は、大きな野望を胸に敵に牙を剥く。

取材・文●萩原孝弘

© 日本スポーツ企画出版社