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●後継者不在、将来見据え決断
●大阪の企業購入、名称変え開業へ
金沢市の湯涌温泉で昭和初期から営業を続けてきた旅館「かなや」が11日、閉館した。加賀料理と露天風呂を売りに石川県内外の客に親しまれたが、将来的な後継者の不在と建物の老朽化を見越し、91年の歴史にピリオドを打った。今後、土地と建物を購入した大阪の企業が新たな宿泊施設をオープンする予定だが、「かなや」の名称はなくなる見通しで、「金沢の奥座敷」を支えた老舗の看板が消えることを惜しむ声も上がる。
●「つぶれでもして景観の邪魔をしたくない」
かなやは明治期に「北陸の鹿鳴館」と評され、当時の財界人らが通った金沢市尾山町の社交クラブ「金谷館」が前身。1933(昭和8)年、同町から湯涌にのれんを移し、旅館として開業した。
近年は、女将(おかみ)の安藤喜代子さん(77)と長男で4代目社長の有(たもつ)さん(50)が切り盛りしていた。能登半島地震後も一定の宿泊需要があるなど経営面は安定していたが、有さんに続く後継者がおらず、家族内で悩みの種となっていたという。
近い将来、築50年が経過した本館建物の老朽化対策も必要になるため、喜代子さんは「旅館がつぶれて湯涌の景観を邪魔する事態は避けたいと思い、早めにたたむことにした」と明かした。
喜代子さんや有さんをはじめ、かなやの歴代経営陣は湯涌温泉全体の活性化にも尽力してきた。2011年には、ご当地アニメ「花咲くいろは」に描かれる「ぼんぼり祭り」の開催準備に携わり、他の旅館関係者と協力して湯涌を「聖地」として定着させた。有さんは、かなやを含む9旅館が加盟する同温泉観光協会の現会長を務めている。
●常連客がねぎらい
5月末、閉館の知らせをホームページに掲載すると、多くの常連客が訪れた。9日に最後の団体客を見送ってからは親子2人で館内の片付けを進めていた。
喜代子さんは「きれいな形で終われて良かった。お客さんの心の中になにがしかが残ってくれたら、それが一番幸せ」と晴れやかな表情を浮かべた。有さんは「私らはここで抜けるが、建物は残る。これからも湯涌を盛り上げていってほしい」と話した。
●「突然だ」関係者困惑 観光協会長後任決まらず
老舗旅館が閉館するとの知らせを受け、湯涌温泉の関係者の間には困惑が広がった。同温泉観光事業協同組合の山下文明理事長は1週間ほど前に閉館を知ったといい、「それぞれの旅館の事情があるので仕方ないが、それにしても突然だ」と驚いた様子で話した。
山下理事長によると、湯涌温泉の老舗旅館は親族経営が多く、建物も古いため、後継者や改修費などの問題を抱えるケースが多い。別の旅館関係者は、社長の有さんが会長を務める湯涌温泉観光協会について「旅館はなくなったが、後任が決まっていない。どうなるのか」と不安を口にした。