「ゴルフ×発声トレーニング」で 楽しく健康寿命を延伸

「チャーシューメーン!」

ゴルフマンガの主人公がショットを放つときの掛け声です。

実は、声を出すと腹圧が上がり、体幹が安定。筋肉が弛緩し、力みも解消される。パワーが出せる効果もあります。投擲の選手が「ウリャー」と叫ぶのはそのためです。

我々の筋力は普段、力を100%発揮できないようリミッター(制御装置)がかけられています。骨や関節、筋腱組織が壊れないようにするためで、本来の筋力の20~30%程度しか出せませんが、大声を出すとリミッターを外すことができます。これを「シャウト効果」と言います。ゴルフは比較的静かにプレーするスポーツですが、今回は「声とゴルフ」の効果を考えてみましょう。

大きな声を出すと、心肺機能や口腔機能、認知機能の向上など、健康面で高い効果が得られます。なぜなら、大声を出すことは深い呼吸を伴う全身運動だからです。呼吸によって心肺機能が向上し、普段あまり使わない筋肉を使うことで血流が良くなり、基礎代謝量のアップが期待できます。血流が良くなると体温が上がり、免疫力も向上します。

また、深い呼吸により腹筋や横隔膜が刺激され、胃腸の働きが良くなると、お通じが良くなり、デトックス効果が高まって肌も綺麗になるでしょう。口腔機能が向上すれば嚥下力の低下も防げ、誤嚥性肺炎の予防にもつながります。誤嚥とは、唾液や食べ物が食道ではなく、気管に入り込むこと。誤嚥性肺炎は、誤嚥が原因で肺炎を引き起こすことです。

「フレイル」という言葉をご存じでしょうか? これは加齢により筋力や認知機能などが低下し、心身が老い衰えた状態。健康と要介護の中間状態の虚弱(frailty)が語源です。一度要介護になると、健康に戻る可能性はゼロに近くなりますが、フレイルの段階では、早期の対策で健康を取り戻すことが可能です。

フレイル予防で大切なのが「運動」「栄養」「口腔ケア」、そして「社会参加」の4点です。大声を出すと、頬や顎を動かすので表情筋をたくさん使います。表情筋は脳に最も近いところにある筋肉なので、多く動かすと脳に刺激を与え、高齢者の認知症予防にも効果的と言われます。

認知症予防の朗読プログラム

(図1)東京都墨田区の「声出し脳トレーニング教室」

発声トレーニングで、高齢者のフレイル予防や認知症予防に取り組む有限会社げんごろう(言語朗)は、都内の自治体を中心に発声トレーニング教室を開催中。発声トレーニングは姿勢を正し、腹圧も上がるので体幹トレーニングになり、ゴルフの上達にもつながるはず。その教室が東京都墨田区の主催で開催されると聞き、足を運びました。(図1)

この教室は「声出し脳トレーニング教室」といい、ショルダーフレーズは「認知症予防のための朗読プログラム」。墨田区の公共施設で行われ、1クール全14回。1回90分で定員25名です。クールの前半は、声出しのための身体づくりや発声のメカニズム、口腔ケアや認知機能についてなど、毎回内容が異なる講義と発声トレーニングで構成。クールの後半は2つのグループに分かれ、最終回の「リレー朗読発表会」に向けて取り組みます。リレー朗読とは、詩や物語を複数人で1行ずつ朗読する同社独自の手法。朗読作品は墨田区の民話が多く、より地域の絆が深まるとか。

受講生の多くは、全14回の教室が終了した後も「自主グループ」として活動しています。同社が活動を支援し、発表の場を設けることで、前述の「社会参加」も促しているのです。同社取締役で本教室の講師を務める平尾麻衣子さんは、

「14回の教室で完結せず、その後の朗読グループが自主活動を続けることが最も大事。この教室はその入口に過ぎないのです」

(図2)「オーラルフレイルと口腔ケア」に関する講義

筆者が見学したのは4回目の教室で、参加者は20名(男性1名)でした。90分の教室は、約25分間のストレッチと腹式呼吸の練習から5分間の休憩を経て、「オーラルフレイルと口腔ケア」に関する講義が約22分間。その後約13分間、表情筋の柔軟性を高めるフェイストレーニングを行い、最後に約25分かけて早口言葉による健口トレーニングを行うという流れでした。(図2~3)

(図3)健口トレーニングを披露する唯一の男性参加者

冒頭で行ったストレッチと腹式呼吸は、首から肩にかけての柔軟性を高めたり、腹圧を上げて体幹(腹筋)を鍛えたり、肋骨周辺の柔軟性を高めたりと、すべてゴルフに役立つものばかりでした。(図4)

孤独から救うゴルフのチカラ

(図4)発声トレーニングはゴルフにも役立つ

筆者は、以上のトレーニングがゴルフの上達にも役立つと確信。そこで同社と協創して、声出しゴルフトレーニングを開発、社会実装するプロジェクトに取り組むことにしました。目的は、楽しくゴルフの上達を図りながら、フレイル予防や認知症予防につなげて健康寿命を延伸させること。げんごろう社の平尾さんは、

「発声トレーニング教室は男性の参加者が少ないので、ゴルフを絡めることで、ゴルフ好きの男性に訴求できるのではと期待しています」

高齢男性の孤独が社会問題になっています。現役時代は仕事で人と接する機会が多くても、退職するとそれが一気にゼロになります。人付き合いがなく社会から孤立、楽しみや生き甲斐を失い、老け込んで寝たきりや要介護になりQOL(Quality of Life)が低下する。このような社会問題も、ゴルフを絡めた一連の活動で解決できると考えています。


この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年6月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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