森保ジャパンの3バック挑戦。最終予選の強敵相手には通用するのか? 守備面ではデメリットも

日本代表は6月11日、エディオンピースウイング広島で行なわれたワールドカップ・アジア2次予選のシリア戦で5-0の大勝を収めた。

ミャンマー戦に続き、3バックを採用した日本だが、攻撃の配置は[3-1-5-1]から[3-2-5]に変わった。ミャンマーは5バック、シリアは4バックだったので、相手の形に合わせて前線に1枚の数的優位を作ることが、システムを調整した理由のひとつだろう。

大きな違いがあるわけではない。前回の[3-1-5-1]でもプレッシャーを受けそうな局面では鎌田大地らが下がり、ダブルボランチのように変形したし、今回の[3-2-5]でも、縦パスが入りそうなら田中碧がポジションを上げ、相手のライン間へ潜った。

つまり、状況によっては同じ形に行き着くのだが、どちらの形から始めるか、という点でミャンマー戦とは違いがあった。その点は後ほど掘り下げるとして。

この試合、序盤から目立ったのは南野拓実だ。日本の[3-2-5]に対し、シリアは[4-4-2]で構えたので、初期配置の時点で日本の5トップは4バックに数的優位がある。そのため、シリアは自陣では右サイドハーフの8番ジャリル・エリアスが外へ張り出し、中村敬斗をマークした。結果として中盤サイドにスペースが空くが、ここにタイミング良く顔を出し、レシーバーになったのが南野だった。

13分に中村の縦突破から、上田綺世がヘディングで先制ゴールを挙げた場面も、中村へ展開する起点を作ったのは南野だ。また、シリアの対応上、彼が空きやすいことを察知したのか、16分には自陣深くから冨安健洋が浮かしたミドルパスを南野へ通し、一発でプレス回避を成功させる場面もあった。序盤から中村の仕掛けが目立ったのは、となりで南野が巧みにボールを引き出していたことが大きい。

一方、日本の先制後、前節で北朝鮮に敗れて後がなく、勝点3を奪うしかないシリアは、ハイプレスにくる傾向が強くなった。

ここで圧巻だったのは、19分の堂安律による追加点の場面だ。日本はシリアのハイプレスを自陣深くでいなした後、GK大迫敬介からタッチライン際の中村へミドルパス。相手DFも寄せてきたが、中村はスムーズにボールを抑えると、中央で空いた久保建英へ矢のようなグラウンダーのパスを通した。プレス回避に成功すると、久保の持ち運びから最後は堂安が見事なフィニッシュへ。

この2点目のシーンには、日本が[3-2-5]を選択した、もうひとつの背景が表れたのではないか。

シリアの状況を鑑みれば、彼らがハイプレスを試みることは想定できる。このとき遠藤航と田中、ボランチを2枚置けば、ハイプレスをいなすサポートを確保しやすい。加えて、ウイングハーフの利き足だ。中村と堂安は、どちらも逆足サイドに配置された。ハイプレスを受けた場面では、相手からボールを隠しながら利き足でパスを出せるメリットがある。

上記の場面は中村のクオリティが光ったが、堂安も遠くを見るビジョンとキック精度には定評がある。サイドでボールを持つと、南野など遠くの味方を見ながらプレーしていた。逆足ウイングハーフは、プレス回避を含め、ダイナミックな展開を可能にするひとつの要素だった。

【PHOTO】日本代表のシリア戦出場16選手&監督の採点・寸評。3人が7点の高評価。MOMは2点に関与した左WB

今回の2試合、3バック挑戦はポジティブ。だが、「最終予選の強敵を相手に通用するのか?」という疑念を抱く人も多いようだ。その点で言えば、シリア戦の[3-2-5]、ダブルボランチプラス逆足ウイングハーフのほうが、より安定性が高かった。

三笘薫と伊東純也、2人の超主力を欠く日本にとっては生産的な挑戦とも言えるし、また、今年1月にロングボールとハイプレスに悩まされて敗れたアジアカップのイラク戦、イラン戦を打開する改善案とも言える。今後の有効な選択肢になった。

ひとつ懸念されるデメリットは、守備面だ。シリア戦も久保がスライドして相手CBへプレスをかける様子は見られたが、それでもやはり、5バック化する傾向は強い。前半はシリアがボールを支配する時間も幾分あったし、最終予選の相手に対しては尚更だ。

そもそも、アジアカップで研究されたとはいえ、日本が誇る最大の長所はミドルプレスとカウンターである。3バックはボール保持の局面でメリットが大きい反面、ミドルプレスがかかりづらい点は気になった。さらに可変を模索してもいいが、もう時間はない。それを踏まえると、やはりベースは4バックか。

後半は4バックに変更した後、攻撃の幅が狭くなり、渋滞して前半のようなダイナミズムが失われたが、それは4バック云々というより、個性の問題が大きい。南野と堂安が両サイドハーフだったため、大外で幅を取る選手が定まらず、渋滞した。この点は62分に相馬勇紀が左サイドハーフ、ボランチに鎌田が入ってから改善されている。

諸々踏まえると、3か4かと言うより、『最適のシステム』は対戦相手の質と形、自分たちのコンディションの良い選手の個性によって変わる。それをチョイス可能にするのが、今回の3バック挑戦であり、選手たちの手応えを含め、後々に効いてくるのではないか。

取材・文●清水英斗(サッカーライター)

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