複数システムで最終予選へ! 森保ジャパンの3バック本格導入の大きなメリット、そして一抹の不安

[W杯予選]日本 5-0 シリア/6月11日/エディオンピースウイング広島

森保ジャパンは、北中米ワールドカップ・アジア2次予選の締めくくりとなる6月シリーズで、3-4-2-1を本格的に導入。アウェーのミャンマー戦は90分を3-4-2-1、ホームのシリア戦では前半は3-4-2-1、後半に1人だけ交代して4-2-3-1にシステムチェンジするオーガナイズで、それぞれ5-0の勝利を飾った。

森保一監督が「3バックはこれまでも試合でやってきたが、ミャンマー戦、シリア戦と、ボールを握るなかで攻撃を仕掛ける良いチャレンジをしてくれたと思う。1つのオプションとしてチームで共有できた」と語るように、守り切るための5-4-1をベースとした形ではなく、自分たちからボールを握って、高い位置で主導権を取っていく3バックをこの段階で組み込めたことは、より強い相手との戦いになる最終予選に向けても、大きな収穫となったのは間違いない。

今回、これだけ3-4-2-1をスムーズに組み込めた理由として、カタールW杯後の第二次森保ジャパンで取り組んできたコンセプトがある。

4バックでも相手のプレスに応じて立ち位置や距離感を変え、守備でも前からハメに行くハイプレスと、そこで奪えなかった状況やリスタートに対してブロックを組むなど、柔軟性の高い攻守のオーガナイズを構築してきた。

またセンターバックとサイドバックの両ポジションをハイレベルにこなせる冨安健洋など、複数のポジションでプレーできる選手が多く、流れのなかでの立ち位置の変化にも対応しやすい。

シリア戦の後半には、左ウイングバックを担っていた中村敬斗に代わり、DF伊藤洋輝を入れて4-2-3-1にシステムを変えたが、4バックになってもビルドアップの時は、相手の2トップに対してボランチの遠藤航か田中碧がディフェンスラインに落ちて、3枚回しにすることでプレスを外す形を取っており、全体の狙いとしては、それほど大きな違いがなく90分を戦っていた。

「3バック、4バックと、どちらもチームとして戦術的に機能させていこうということ。後半からシステムを変えて、より選手たちそれぞれとチームとしての戦術浸透、対応力を持って戦うことを次のステージに向けて変更した。今回は冨安を右サイドバックで起用したが、他のポジションも含めて色々な戦術的、システムのパターンと、良い選手がいるので、可能な限り複数のポジションでプレーしてもらうのがオプションになると思った」

森保監督はシリア戦で前半3-4-2-1、後半4-2-3-1で戦った理由をそう語ったが、3バックだから攻撃的、4バックだから守備的ということではなく、スタートの立ち位置や選手間の噛み合わせとして、どちらがより有効かを考えながら、臨機応変に使い分けていける可能性を示したという意味でも、非常に有意義なトライになったと言える。

【PHOTO】日本代表のシリア戦出場16選手&監督の採点・寸評。3人が7点の高評価。MOMは2点に関与した左WB

シリア戦は3-4-2-1のウイングバックが中村と堂安律という、4バックでは攻撃的なポジションを担うタイプの組み合わせだったこともあり、攻撃的な中村を守備的な伊藤に代えることで、4-2-3-1に変更できたが、ミャンマー戦のように右ウイングバックが菅原由勢であれば、メンバー変更なく3バックから4バックに変更できたはず。

実際、今回の活動の初日に、同じメンバーで3バックと4バックを切り替えるトレーニングを行なっていた。

またシリア戦では3バックから4バックへの変更に伴い、ディフェンスラインは右から冨安、板倉滉、町田浩樹、伊藤とセンターバックをこなせる選手が4人揃うという、これまでの日本代表には類を見ない4バックで構成されたが、町田は「洋輝と入れ替わるかもみたいな感じでは言ってたんですけど」と語る。つまりは4バックの中でも、町田が左サイドバックで、伊藤が左センターバックになるプランもあったわけだ。

「1人で複数ポジションをこなせるのが当たり前になっている」

そう町田が主張するように、第二次森保ジャパンにおいては、可変システムも複数ポジションもかなりチームに組み込まれてきており、今回の3バックはその延長線上にあることが証明されるような、シリア戦のパフォーマンスだった。

ただ、代表チームでこれだけ柔軟で、幅広い戦い方が浸透してくると、フレッシュな選手がいきなり入ってフィットすることが難しくなるかもしれない。

おそらくパリ五輪を終えて、最終予選に向けては現在のU-23世代からA代表に食い込んでくる選手がいるはず。彼らは大岩剛監督のもとで、ある程度、A代表と似通った戦術コンセプトで経験を積んでおり、森保監督の要求にも応えやすいかもしれないが、A代表の主力選手たちとの共有という部分では、ハードルがあるかもしれない。どちらの代表も経験していない選手であれば、さらに簡単ではないだろう。

3か月後からスタートするアジア最終予選の期間に、親善試合や練習試合で新戦力をテストするチャンスはほとんど無い。事実上の初招集だった鈴木唯人を含む今回の26人や、怪我で外れた三笘薫をはじめ、伊東純也、浅野拓磨、毎熊晟矢、佐野海舟など、第二次森保ジャパンで、これまでの活動を経験している選手は問題なくフィットするはずだが、そうした選手を含む30人前後の選手が、良くも悪くも固定的になっていく可能性もある。

もしかしたら国内組による候補合宿など、イレギュラーな強化を入れていくかもしれないが、3-4-2-1を本格的に導入したメリットが大いに期待できる一方で、新しい選手の組み込みという課題に、森保監督がどう向き合っていくのか興味深いテーマだ。

取材・文●河治良幸

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