国内に有名温泉数あれど、指宿といえば…砂むし温泉「砂楽」最大400円値上げ インバウンドで来場者急増したけれど、「砂かけ」は慢性的不足、備品の物価高騰も追い打ち

利用者を迎えるための「寝床」作りに汗を流す砂かけの従業員=指宿市の砂むし会館「砂楽」

 鹿児島県指宿市が市営の砂むし会館「砂楽」の利用料金を引き上げる条例改正案を市議会6月定例会に提出した。通常料金を最大400円値上げし、繁忙期には特別料金も設ける内容。止まらない物価高や人手不足などを背景に、現場は利用者の満足度を高める動きを模索している。

 浴衣姿で寝転ぶ客に、スタッフが手際よく砂をかけていく。6月初旬、「砂楽」には平日にもかかわらず次々と観光客が訪れていた。入浴料金は、浴衣込みで大人1100円、小学生以下は600円。改正案が可決されれば10月から、大人が1500円に上がる。

 同館の利用者は、市外からの客が9割超を占めるという。神奈川県藤沢市の主婦(74)は、毎年のように訪れるリピーター。「箱根や熱海など温泉は関東近辺にもある。でも、砂むしはここにしかない」と力を込める。値上げについても「年に1度のことなので、変わらず利用すると思う」と話す。

◇◆◇

 値上げの主な理由に市は、昨今の物価高を挙げる。同館によると、ここ数年でタオルやシャンプーなどの仕入れ値は軒並み上昇、電気料金の値上げも重荷となっているという。

 慢性的な人手不足への対応も迫られている。利用者は増加傾向で、特に外国人はコロナ禍前を上回るほどの勢い。一方で同館では昨秋、定員18人の砂かけ担当従業員が一時10人まで減り、約3カ月間の時短営業を強いられた。賃金を引き上げ現在15人まで回復したが、定員に届く見通しは立たないままだ。

 砂かけ歴通算約15年の中村秀司さん(40)は「お客さんに喜んでもらえると自分もうれしい」と仕事にやりがいを感じている。ただ、1人につき約20~30キロ分の砂をかける作業は体力勝負で、けがもつきもの。繁忙期は手当があるとはいえ「個々の負担は大きい。汗水垂らした分の対価が大きくなれば、従業員のモチベーションもさらに上がるのでは」と期待する。

◇◆◇

 7日にあった市議会産業建設委員会の審議では、値上げへの質問が相次いだ。金額の妥当性を問う声に対し、当局は「値上げするだけではなく、サービスの質や満足度向上を図る必要がある」と答弁した。

 同館は手始めに、利用者に待ち時間をストレスなく過ごしてもらうため改善策を検討中だ。具体的には、コロナ禍で利用を休止している休憩室や、海岸線を望む屋上スペースの有効活用などを見据える。

 現在は原則禁止している砂むし中の写真撮影も、何らかの形で解禁できないか模索する。値上げにより利用率の低下が懸念される市民に対しては「湯治割引や回数券の利用を推進していく」(当局)としている。

 最近では、周辺に新たな飲食店が相次ぎオープンするなど地域は活気を取り戻しつつある。「砂楽」の下吹越寿専務理事は「周囲とも連携し、地域ぐるみで満足度アップに努めたい」と語る。

観光客に砂をかけていく従業員=指宿市の砂むし会館「砂楽」

© 株式会社南日本新聞社