ニーズ急伸の陰で教員にのしかかる重い負担 1人で生徒70人指導、ICT化追いつかず 自宅レポート10万通、郵送に手書き添削

スクーリングで登校し、課題に取り組む通信制の生徒たち=鹿児島市の開陽高校

 鹿児島県内の公立高校で唯一、通信制課程を持つ開陽(鹿児島市)は、2000人以上が在籍する「マンモス校」だ。教員1人当たり生徒約70人を指導するが、私立校や全日制のようにICT(情報通信技術)化は進まず、現場の負担は重い。

 5月中旬、普段は静かな日曜日の校舎が生徒たちでにぎわっていた。開陽高が開いた本年度最初のスクーリング(面接指導)。この日は鹿児島・姶良地区の生徒が登校していた。

 自宅で解いたリポート(課題)を提出するのが基本だが、単位を取るにはスクーリングにも出なければならない。生徒たちは机に座ると、持参したリポートを解き始める。教員は教室内を動き回りながら生徒の質問に答えた。

 鹿児島市の男子生徒(15)はこの日、リポートが終わらなかったため持ち帰ることに。「家で解いて送っても大丈夫。自分のペースで学べるのがうれしい」と家路に就いた。

■現場の苦悩

 教員は授業を行わない代わりに添削に追われる。主に郵送されてくるリポートは年間10万通に上る。男性教員は「普段会えない分、一つ一つに丁寧に手書きでコメントを付ける。全員分を終えるまで、かなりの時間がかかる」と漏らす。

 地方の生徒を受け持つ教員の負担も軽くはない。鹿児島・姶良地区以外の生徒998人は、14カ所ある協力校でスクーリングを受ける。日曜日に開かれ、協力校や近隣校の高校教員約600人が持ち回りで担当する。

 協力する教員たちは休日出勤での指導に加えて、生徒の学習状況報告も担う。定員割れが続く影響で地方校は小規模化しており、協力できる教員の確保も難しくなってきている。

 鹿屋地区を統括する男性教諭(30)は「地方の開陽生が増え、教員一人一人の仕事量も多くなっている。通信制の業務が減らなければ、協力態勢を持続できなくなってくる」と現状を危惧する。

■他県はICT化

 宮崎や長崎など公立通信制を2校設置する県もあるが、鹿児島は開陽のみ。学費が高い私立に通えない生徒は開陽に集まる。野崎進作総括教頭は「生徒数に対する教員の数は九州でも少ない方。入試がないため学力格差も大きく、教員の苦労は多い」と語る。

 他県ではICTを活用して現場の負担を減らす試みも始まっている。熊本県教育委員会は本年度、県立通信制高校の生徒約700人に1人1台ずつタブレット端末を導入。教員用も約40台配備し、リポートや通知表のデジタル化を図る。

 一方、鹿児島県教委は現在、全日制県立高に対して生徒用約1万2000台、教科教員用約2000台の端末を用意。在籍数に応じて貸し出しているものの、通信制は配備に至っていない。

 県高校教育課の川上隆博課長は「全日制に比べて、通信制は授業で使う機会が限られる」と理由を説明する。通信制の学習環境については「個々に応じた指導ができる環境の充実に努める」としている。

※2024年5月26日付掲載・連載「通信制高校は今~かごしまの現場から」㊥より

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