死を決意した20代女性を思いとどまらせた希有な心療内科のお医者さん…目から鱗が落ちた治療法【東尋坊の現場から】

福井県坂井市にある東尋坊

福井県坂井市にある観光名所・東尋坊の岩場を毎日のようにパトロールして自殺企図者を探し続け、今日までの約20年間で828人 (6/10現在) の自殺企図者を発見・保護し、その大半の人は再起を果たしています。活動を通して分かった事は、自殺企図者人たち皆さんが「死ぬのは怖い」「死にたくない」「出来るものならもう一度人生をやり直したい」と心から叫んでいたことです。

その人たちを取り巻いている周りの人は、どう対応したら良いのか分からず、苦しみの根心が理解できないため、家の中に閉じ込めたり、外出を禁止したりしてその人の人権を侵害し、自殺に追い込んでいる現実があります。彼らの叫び声を正しく理解すると「抱えている悩み事を取り除くためのお手伝いをして欲しい…」と言っている叫び声が聞こえる気がします。こんな自殺企図者の叫び声が聞こえて対応できる支援者がここ日本には少ないため日本の自殺が一向に減らないんだと思います。

私たちは、この人たちの叫び声に少しでも応えようと活動しています。実際にやっている支援活動の内容を一部ご紹介しますと、パワーハラメントの被害者に関しては、直接その被害者の事業所を訪問して関係者に対して職場の改善を要求しています。また、生活保護を受けるために福祉課に同伴したり、家族内での揉め事には、その家庭を訪問して緊急に家族会議を開いて貰い、改善策を見出して提言しています。犯罪の被害者である場合は、警察に同伴し、事犯の内容を説明して事件化をお願いし、場合により解決するまでの間、シェルターで身柄を保護しています。損害賠償などの請求事案については、法テラスの弁護士さんに相談し、場合によって各種の訴訟手続きの支援をしています。

ところが、自殺を考える人の多くは精神を患っている人が多いのです。そしてその家族はどう対応したら良いか分からず、家族全員が疲弊してしまっているのです。精神を患っている人は、何ヵ月も何年も心療内科や精神科医のお世話になっており、長期間の治療を受けていますが、その治療内容は、治療を受けるために何時間も待合室で待たされ、5分位の問診で終わり薬物の処方箋を受け取って帰る人が多いと聞きます。この精神障害者に対する治療方法について厚労省にお尋ねしたところ、薬物療法、認知行動療法、環境調整療法、物理療法などがあるとのことでしたが、現実は、薬物療法を受けるための「薬物の処方箋」だけを貰って帰っているようです。

私は機会がある毎に精神科医の先生にお願いをしている事は、精神障がい者を抱えている周りの人に対してどの様に対応したらよいのか「処方箋」を出して教えて欲しい…とお願いしていますが、今回初めて、環境調整を図るための「処方箋」を出している心療内科医の先生がおられることを知り目から鱗の思いでありましたので、その時の事案についてここでご紹介します。

本年6月上旬の日曜日の昼過ぎのことでした。関東地方に住む20歳代の女性が私たちの活動拠点である飲食店(兼・相談所)の前を行き来していたため声をかけました。相談所へ招き入れて「何か悩んでいるみたいですね…?」と声を掛けると「すみません…!」と言い、自殺を考えて来た事を話ししてくれたのです。

自殺に思い至った理由は、女性は国家公務員で、上司や同僚の指導が厳しく、毎日のように失敗ばかりしていたことが発端です。「もう2年にもなるのに何も出来ないなんて何や…! 」などと言われ続けており、自信を無くし、毎日寝不足が続いたため心療内科を受診。発達障害とうつ病だと言われたのです。そこで、病気休暇を取って現在、A型支援施設で働いているとの事でした。

そして自殺するために東尋坊を訪れて、岩場に立ったわけですが、約1時間岩場で考え事をしていた時に、治療を受けている心療内科医の先生を思い出したそうです。そう、それが今回私が紹介したい先生です。

その先生は毎週日曜と水曜日は休院日なのですが、「何時でも苦しくなったら電話しても良いよ」と言ってくれていたそうです。女性が電話をしたところ、直ぐ電話口に出てくれて励ましてくれたようで、「あの先生は、診断書を書いて職場の管理者に環境調整をするための内容を処方箋として書いて出してくれています。」と明かしてくれました。

 私としては、精神科医により環境調整をするための「処方箋」を出すべきであると機会ある毎に言っていましたが、それを実際にやっている先生が居ると聞かされたため嬉しくなり早速直接その先生に電話して話を聞きました。先生いわく「他の医師はそんな事まではやっていないと思います。私は、薬物治療だけではダメだと考えています。患者さんの周りの人の力を借りて治療をすべきだと思ってやっていますが、法的な強制力が無いため、協力を求めるだけだから聞いてくれない事業所もありますよ…」とのことでした。

また、数日後、女性が通っていたA型支援施設の管理者から直接私にお礼の電話がありましたが、その時にあの先生から「環境調整に関する処方箋」を受けたことがあるかについてお尋ねしました。すると「この施設では、多くの精神障がいを持っている患者さんが働いていますが、あの先生だけは別格で、とても親切であり現場では大変助かっています。」と先生の対応をありがたがっていました。 

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今回のこの事案で、初めて精神科医が患者さんの家族や事業所に対して精神障がい者の対応の仕方について「処方箋」を発出している先生が居る事を知りましたが、そして、この治療方法をもっと広く精神科医に広めて欲しいと思いました。そこで厚労省にこんな先生が居るかについて電話で問い合わせをしたところ「精神科医は個人情報保護の観点から、本人の希望があれば対応している」とのことでありました。 自殺を防止するためにはまだまだ足りない対策が沢山あると思います。それは、悩みごとを取除くための支援者を増やす対策と、精神科医らの専門知識を持っている方たちによる精神障がい者に対する対応の仕方についての「処方箋」を発出するように、これを義務化にした社会になって欲しいと思います。

⇒東尋坊で活動する「心に響く文集・編集局」ってどんなグループ

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 福井県の東尋坊で自殺を図ろうとする人たちを少しでも救おうと活動するNPO法人「心に響く文集・編集局」(茂幸雄代表)によるコラムです。

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