【コラム・天風録】木下サーカスと広島の縁

 縁結びで知られる出雲大社には、意外な恩人と「恩ゾウ」がいる。71年前に拝殿が焼け落ちる大火に見舞われたが、国宝の本殿や宝物はほぼ無傷で守られた。功労者は境内で興行中だった木下サーカスの一団である▲深夜、ゾウが異様な鳴き声を上げ、境内で寝ていた団員約20人が飛び起きる。得意の軽業で松をよじ登って本殿へ。懸命に宝物を運び出した。<吹き付ける熱風、飛び散る火の粉をものともせず>と本紙は伝えている▲普段の鍛錬と結束の力が、テントの外でも発揮された一例だろう。さらに磨かれ、進化を重ねて今に受け継がれている。同団の広島公演があす、広島マリーナホップ特設会場で開幕する▲広島との縁は深い。多くの世代をまたぎ、空中ブランコの離れ業に胸を躍らせてきた市民は多いはず。今回は人気のゾウなどに加え、愛らしいポニー隊が広島デビューを果たす。ハラハラ、ドキドキ、時々ほっこり。非日常を存分に堪能できそうだ▲3年前の前回公演は、団員のコロナ感染で途中打ち切りとなった。「今回はより多くの人に感動を届けたい」という心意気がうれしい。コロナ禍で少しほつれた縁はきっと、出雲の神様が結び直してくれる。

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