夫が寝ている間に…「認知症」の妻が失踪、行方不明から10か月 探し続ける夫、自身の経験を伝えたい…犯してしまった「3つの間違い」とは?

隣で寝ていたはずの妻が、朝起きるといなくなっていた…。
認知症を患う妻が突然自宅から失踪し、その帰りを待ち続ける夫が鳥取県米子市にいます。
妻が行方不明となってから10か月、夫は同じ境遇で苦しむ人たちへ、自身の経験を伝える活動を始めました。

「本当に生きて、見つかることを私は一番望んでいます」

こう話すのは鳥取県米子市に住む荒川勉さん(65)。
2023年8月8日、朝起きると、隣で寝ていたはずの妻・泰子さん(当時59)の姿がなく、それ以降、行方が分からないままです。

荒川勉さん
「8月8日ですね。もう最高気温が38度の日だったんですけども、私が午前5時50分ぐらいに目覚めたら、もう泰子の姿がなくてですね、玄関に靴もなくてバッグもなくて…いなくなっていました」

泰子さんは6年ほど前、物の名前や意味が分からなくなる「意味性認知症」と診断されました。
行方不明になる前は症状が進行していたといいます。

荒川勉さん
「まず会話ですね。妻は名前を尋ねられても答えられません。それから住所・電話番号も答えられません」

突然の失踪。介護に専念するため、勉さんが2023年7月末で仕事を辞めた矢先の出来事でした。

行方不明になった当日、国道を歩いて、米子市から島根県安来市方面へ向かう泰子さんとみられる人が、防犯カメラに写っていました。

荒川勉さん
「その日はちょうど泰子と一緒に米子市のスーパーに買い物に行く予定で、そちらのスーパーにすぐ行ったんですけど、結局見つけられませんでした。
その後、防犯カメラの映像で泰子が松江方面に向かったということがわかりました。泰子は松江が実家なもんですから、おそらく私の推測としては、実家の方に帰るつもりだったと思います」

その後、2023年10月末には島根県松江市の国道9号沿いで、泰子さんらしき人の姿をドライブレコーダーがとらえられましたが発見には至っておらず、現在情報が途絶えています。

泰子さんが行方不明となってから10か月。
勉さんの自宅には、部屋の至るところに泰子さんや子どもたちの写真が貼られています。

最近は、長年撮影し続けていたホームビデオの映像を見返し、いまだ帰らぬ妻の姿を、目に焼き付ける日々です。

荒川勉さん
「これは家族みんなで広島の方に旅行に行ったときの映像です。子どもが生まれた時からずっと記録は残しています。泰子の姿もちゃんと残っているんですけど、やっぱりあんまり見るとちょっと悲しくなるので、たまに思い出したときに見ています。
もうこういう時代は帰ってこないんでね。本当にまさかこうなるなんて誰もこの時は思いませんからね。人の運命はわからないですね」

勉さんは、泰子さんを探すためにSNS投稿を連日続け、情報提供を呼びかけてきました。

今年4月には、泰子さんのことを扱ったテレビ番組が全国放送され、直後は大きな反響がありましたが、次第に情報は少なくなっていると言います。

荒川勉さん
「人間というのは忘れてしまう動物なので、やっぱり泰子のことをですね、忘れて欲しくないんですよね。だから少しでも皆さんのところに情報を届けくように、毎日Xを投稿しております」

一方で勉さんは、同じ悩みに苦しむ人たちとの情報交換も始めました。

公益社団法人「認知症の人と家族の会」の活動に参加。1人でも多くの認知症行方不明者が見つかるように、そして今後、認知症で行方不明となる人が、1人でも少なくなるようにするにはどうすればいいのかを、自身の経験とともに伝える活動も始めています。

荒川勉さん
「全国で、私みたいに悲しい思いをしている家族の方がたくさんおられるんです。だけど、その行方不明になっている人たちを探し続けるという組織って今ないんですね。そういった組織をですね、立ち上げたいなと考えております。
そして、行方不明者の捜索の初動捜査は早ければ早いほどいいんです。だから行方不明になった当日、なるべく早く警察の方に届け出をして、1分でも早く捜索を始める。もうこれが一番基本だと思います。そういったことを伝えて、少しでも認知症の行方不明者の数を減らせるようにしたい」

今月8日、勉さんは京都市で開かれた「認知症の人と家族の会」の総会に参加しました。

勉さんは、1人でも多くの認知症行方不明者が見つかるように、そして今後、認知症で行方不明となる人が、1人でも少なくなるようにするにはどうすればいいのかを、自身の経験とともに集まった人たちに語りました。

荒川勉さん
「私が今回のことで間違いを犯した3つのことを話して終わりにしたいと思います。
泰子に身分の分かるもの、GPSなど所在が分かるものを持たせなかったこと。
2つ目は、いつも1人で帰宅できていたので、警察への通報が遅れたこと。
3つ目は、自分の思い込みで捜索範囲を間違えたことです。
今後は泰子の捜索をするとともに、行方不明のままの人の家族のために少しでも力になりたいと思っています」

警察庁によりますと、認知症の行方不明者の99.6%は1週間以内に見つかっているとのこと。一方で、半年をすぎるとその確率は0.1%未満になるといいます。

泰子さんがいなくなってから10か月が経ちました。

しかし、それでも勉さんは今も諦めずSNSへの投稿を続け情報を募り、これからもやれることを尽くしていくと誓います。

荒川勉さん
「本当に生きて、見つかることを一番望んでいます。とにかく命だけあってくれれば、どんな状態になっていても嬉しいです。とにかく生きていてくれれば…それだけです」

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