「周りの見る目が変わってきている」初挑戦のベトナムで岩政大樹監督が示す新たなサッカー【インタビューパート2】

2024年1月11日、ベトナム1部のハノイFCの指揮官に就任し、今年5月には月間最優秀監督賞も受賞した岩政大樹監督。未知の土地で注目を集める男へのインタビューのパート2をお届けする。

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――初挑戦となる異国の地で結果を残しています。ベトナムサッカーに風穴を開けられたとの想いもあるのでは?

「風穴...そうかもしれませんね。ベトナムリーグの外国人枠は『3人』ですが、その3選手をどう起用するかというと、ベトナムの多くのチームは前線に外国人をふたり並べ、それ以外はセンターバックにひとりか、ボランチにひとり活用するのが主流です。そして、フィジカルで優位性を持てる外国人選手にパスを入れ、小柄なベトナム人選手がこぼれたボールを拾って戦う形が多い。

それが悪いわけではないし、そうせざるを得ないような外的な要因もたくさんあります。たとえばグラウンドが悪いとか、すぐに結果を出さないとクラブ、サポーター、メディアに認められないとか、実際にその戦い方が手っ取り早いとか。

しかし、僕がここに来て思ったのは、ベトナム人選手を活かしたサッカーがしたいということ。そして、それができるということ。それに、普段のチームでロングボール主体のサッカーをしているのに、代表でいきなり違うことをやろうとしても、なかなかできない。

外国人が判断してプレーをして、それに合わせてベトナム人選手が周りを動いていくサッカーだと、ベトナム人の判断力は育たないし、それが代表チームや、この国のサッカーのためになっているとは思えなかったんです。加えて、うちには技術的に優れた選手が揃っていた。だからこそ、このサッカーを思い切って作りました。

今はこうやって結果が出始めて、順位も就任時の8位から3位まで上がってきたので、周りの空気はだいぶ変わってきました。他のチームでは得点の7割を外国人選手が挙げていますが、僕のチームではベトナム人選手が8割の得点を取っている。そういう部分でも、周りの見る目が変わってきているなと感じます」

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――改めて、ここまで結果を残せた要因は?

「確かにピッチ内外で様々な難しさはあったけれど、それよりも大きかったのは、僕の提示がどうこうより、選手たちがこのサッカーをやりたいっていう思いがあったこと。やっぱりプレーするのは選手たちだし、具体的に提示するものは鹿島の時とはだいぶ変えていますが、上手く進められているのは、選手たちがいてこそ。

僕が就任した時、うちには技術面に優れた選手が多く、相手を動かし、意図的に崩していくようなサッカーをやりたいと感じている者たちがいた。これまではそうしたサッカーをやる機会がなかったようだけど、今はそれに取り組めるのが嬉しいみたい。それで実際に勝ててもいるので、選手たちはすごく楽しいんだろうなと思います。それが今の結果の要因ですね」

――選手たちも楽しみながらプレーできていると。

「自分たちでボールを動かすサッカーって、選手たちにとってもやっぱり楽しいわけですよね。こういうパスを出せば相手をこう動かすことができ、相手をここに動かしたら自分たちの狙ったスペースを作れて、そのスペースを利用してこのように攻撃するんだよって、ずっとビデオなどで見せていると、選手たちは嬉しそう。当然、勝てばみんな良いんだろうけど、勝ち方によって感じ方は異なる。

そういう面では、選手たちが本当に意欲的に取り組んでくれました。分析のビデオなどで説明していると、試合に出ていない選手も食い入るように見てくれている。こうやってサッカーを考えるんだとか、こういう仕組みなんだと気付くことって、発見だし、選手としての“幅”にもなる。4月までは勝ったり負けたりを繰り返していたけど、勝ち負けに関わらず、できたところ、できなかったところを具体的に伝えながら進めると、だんだん選手たちがサッカーを理解し始めた。

最終的に今月(5月)の連勝が始まった試合で、修正したところがうまくハマり、チームのモデルがひとつ固まったと感じています。そこから4連勝につながった。どの試合も本当に素晴らしいし、どこに見せても恥ずかしくない内容だったと思いますね」

【第2回終了/全3回】

取材・文●平 龍生(サッカーダイジェスト編集部)

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