『ジョジョ』『コナン』など精密なキャラウィッグ作成で話題!美容師・さとけん氏インタビュー

「さとけんHair Labo」で話題の佐藤健一氏

【銀の盾に聞いてみた】個性的でカラフル、加えて圧倒的な毛量…。そんなアニメ・ゲームに登場するキャラクターの現実的ではない髪形を、ウィッグで再現する動画が人気を集めている。

投稿しているのは表参道で活動する美容師のさとけん(佐藤健一)氏だ。13万人以上の登録者を誇るチャンネルを運営する同氏に、ウィッグ制作のこだわりについて聞いた。

――ウィッグ制作を始めた時期は

さとけん氏(以下、さとけん) コロナ禍で皆さん美容院を自粛されていた時に、空いた時間で何かやろうと思ったのがきっかけでした。それまで医療用ウィッグは作っていましたが、基本的には自然な髪形のものですし、(キャラクターのウィッグを指さして)こういうものとは違いますね。

――初期には「鬼滅の刃」のキャラクターのウィッグを作成・公開した

さとけん 同じ店のスタッフが、「我妻善逸の髪形をやってみません?」と提案してくれたんです。それをポンと引き受けた結果、気づいたら発展していたという感じで。

――もともとアニメや漫画は好きだった

さとけん 中学・高校時代に「エヴァンゲリオン」の影響で同じアニメや漫画を繰り返し楽しむようになって、その頃からオタクの素質はあったのかなと思います。動画で何度も髪形を再現している「ジョジョの奇妙な冒険」も、学生時代に好きになりました。

――ウィッグ作成当初は苦労したのでは

さとけん 苦労というよりも、「わからない」という感触の方が強かったですね。ヘアアイロンを使って巻いても、ウィッグだと手を離した瞬間に戻ってしまいますし。

――そもそも人毛ではないと聞いた

さとけん 人毛を使うと1回で20万円近くかかるので、ポリエステルのウィッグを使っています。材質的にブリーチはできず、髪の色は足していくことしかできません。組み合わせを考えつつ、ウィッグを染料と一緒に煮込んで理想の色を作っています。

――1つのウィッグにかける時間は

さとけん 髪形を作るだけなら2週間で終わることもありますが、作業量が多ければ1か月はかかりますね。一番大変だったのは「ドラゴンボール」の孫悟空を再現した時です。超(スーパー)サイヤ人の髪形も段階ごとに作ったら、結局4回作業することになって。別々の動画で公開すれば良かったなと、今になって思っています(笑い)。

――キャラクターによっては簡単に再現できることも

さとけん 「ジョジョ」のキャラは、特徴が強い分やりやすかったですね。結局、自然な髪形になればなるほど難しいです。似せられるポイントも少なくなりますし、たった数センチ違うだけで別人に見えてしまうので。

――完成品はどれも重量がありそうだが…

さとけん もちろんウィッグパーツを足すこともありますが、短く切りそろえてしまえばそこまで重くはないです。ただ量を足して長さもそのまま、というウィッグは、つけると首が折れちゃうかな。〝超サイヤ人3〟の悟空(のウィッグ)は確か3キロを超えていました。

――材料費も相当かかるのでは

さとけん 理想の形になればいいやと思ってしまうので、実は作業の途中から金額を気にしていないんです。全部終わった後にカードの請求額を見て、「あっ、やりすぎた…」って思うことも多いですね。視聴者の方に期待していただいているということもありますが、それ以上に作業自体が好きということが理由としては大きいかもしれません。

――印象に残っているウィッグ・反応が良かったウィッグは

さとけん 前々から再現にあこがれていたという意味では「遊☆戯☆王」の武藤遊戯ですね。髪の色も複雑に分かれていて、もう一度やれと言われてもやりたくない程の大変さでした(笑い)。反応の良さでは「ジョジョ」のポルナレフでしょうか。作業中も美容室のスタッフが笑いながら横を通っていて、「プロ目線でも面白いんだ」と手ごたえは感じていました。

――美容室にも2次元作品ファンの客が増えた?

さとけん 好きなキャラの髪色を再現してほしいという依頼はありますし、「これが私の〝推し〟で…」とまだ動画で作っていないキャラクターの色を指定されることも多いです。動画の影響で言えば、「進撃の巨人」のリヴァイを再現した時に、大半のお客さんの注文が「リヴァイ(の髪形)にしてください」になったことがあって(笑い)。〝理想のリヴァイ〟を追い求めていた方々に、うちを見つけていただいたのかなと思っています。

――人気キャラクターを再現すると、ファンからのプレッシャーも大きそうだ

さとけん 確かにそれぞれ解釈がありますから、ファンが100人いたとして全員を満足させられるかは分かりません。それでも「作品が好きな人」に喜んでもらえるレベルにはしたいと思って取り組んでいます。そのためにゲームのキャラであれば登場作品を最後までプレーしますし、アニメのキャラであれば全話見るようにしていますね。自分もキャラを好きにならないと、本気で取り組めないですから。

――特にうれしかったファンの反応は

さとけん 動画でもたくさんありがたいコメントをいただくので絞れませんが…。以前男装をしてイベントに参加するコスプレーヤーの方に、ウィッグをお渡ししたことがあって。その後「ウィッグのおかげでモテました!」と報告された時には、作った側としても思わず「よし!」と思いました。

――ちなみに「これを再現できればゴール」という髪形は?

さとけん 漫画家の方がすごい髪形を作られたらその都度更新されてしまうので、現状のゴールは考えていないです。ただいつかやりたいのは〝ゴンさん〟(漫画「HUNTER×HUNTER」の主人公・ゴン=フリークスが一時的に急成長した姿の愛称)ですね。あの髪の長さは再現したいですし、その時にはゴンさんのような筋骨隆々としたマネキンも用意しようと思っています。ただ髪の全長が5メートルを超えているという説もあるので、どこで作業するのかという話にはなってきますが(苦笑)。

――再現が難しいのは

さとけん やはり「プリキュア」作品全般ですね…。特に登場人物が増え始めた作品からは難しいです。前は短く、後ろが長い髪形ばかりということもあって、ウィッグにすると首が後ろに倒れてしまうんですよ。かぶってもらうのも不安ですし、作業としても「美容」というより「工作」に近いので、リクエストはいただきつつも保留しているのが現状です。

――最後に今後の夢を

さとけん 漫画やアニメを実写化した作品で、ウィッグを担当してみたいという夢はあります。世の中では「どの俳優さんが演じるのか」が話題になりますけど、職業柄自分は「髪形がどう再現されるか」の方が気になるんですよね。作品を見て、試しに自分も作ってみようと触発されることもあるくらいで。いつかはそういう経験ができたらいいな、とひそかに思っています。

☆さとけん 美容師。「2次元を3次元にする美容師」というコンセプトで、2020年に2次元作品のキャラクターの髪形をウィッグで再現するユーチューブチャンネル「さとけんHair Labo」を開設した。特徴的な髪型を精密に再現していることが話題となり、チャンネル登録者数は2024年6月時点で13万人を突破している。

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