不適切保育や給料安いの声…社会インフラ「保育士」揺らぐ地位 子どもの命を預かる重責の一方で

子どもたちの昼寝の時間、連絡帳にこの日の様子を書き込む保育士=5月、福井県福井市天池町の仁愛保育園

 4歳児のクラスを担当する保育士は、ある園児の手を握り、異変に気付いた。「おててがあったかいねえ。お熱、測ろうか」。体温は36.9度で、平熱より少し高いだけだった。「つらくなったら言ってね」

 福井県福井市の仁愛保育園では、子どもたちの体温が平熱より1度以上高いと、保護者に伝える。熱けいれんなどの心配がある子どもは、1度以内でも連絡する。

 0、1歳児のクラス。昼食中にうつらうつらする子どもがいた。「〇〇ちゃん、お散歩行こうか」。保育士は子どもの手を引き廊下を1往復。「口に何か入れたまま寝ると、誤嚥の可能性があるので」。部屋に戻り、目が覚めた状態を確認し、食事を再開した。

 午後1時。子どもたちが昼寝を始めると、保育士たちは様子をうかがいながら食事を始めた。少し休憩をとった後、一人一人の連絡帳にこの日の様子を書き込んだ。

 昼寝を終え、おやつを食べ、少し遊んで午後4時過ぎ。保護者が迎えにやって来た。30代のパート女性は「保育園がなければ私たちは働けない。感謝しかない」と話した。

 国は少子化対策として1994年、保育所を増やすことなどを盛り込んだ「エンゼルプラン」を策定した。女性の就業率は結婚や子育ての時期に下がり、再び上がる「M字曲線」と言われていたが、Mのくぼみは小さくなっていった。

 2022年の福井県の共働き世帯の割合は60.6%で全国1位、女性の就業率は56.5%で2位。保育園や認定こども園は、女性活躍を支える社会インフラといえる。

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 こども家庭庁は23年5月、衝撃的な数字を公表した。22年4~12月に「不適切な保育」が全国で914件確認されたとの内容だ。

 福井市の認定こども園の園長は「虐待や送迎バス内の園児置き去りなど一連の報道で、『保育士はよい仕事』という社会的ポジションが揺らいでいる。親も職業として勧めなくなっているのではないか」と不安がる。

 4月に福井新聞が「県内の保育士不足深刻」という記事を掲載した際は、「給料が安い」といった現場の声も寄せられた。正職員として20年以上私立保育園で保育士をしている40代女性は「月収は20万円ほど。これだけ働いてきてなんで? とむなしくなる」と不満を漏らす。

⇒「保育士を助けて」記事に寄せられた現場からのSOS

 一方、厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、22年度の女性保育士の平均月収は25万800円で、全産業の女性の平均月収24万8800円を上回る。13年度は20万8700円だった。

 国は13年度から、処遇改善のための補助金を支給しているが、賃金は園ごとで大きな開きがある可能性がある。ある保育士は「処遇改善で、給料は間違いなく上がっている。『賃金が安い』とよく言われるが、子どもの命を預かるという重い責任に給料が見合わないという意味も含まれているのではないか」と指摘する。

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